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いつから勘違いしていたのか。アルファイドは少しアルキオネ様に似ているが彼じゃないのに。分かっているはずだった。
やはり私は剣など手に取ってはいけなかった。アルファイドを守れて良かった?その一時の高揚感で剣があればなんでもできると調子に乗ってしまった。
右手に馴染む重さのせいで、いや己の過信のせいで認識を間違えたのだ。
アルはアルキオネ様じゃない。
連帯攻撃なんて出来ないし、名前を呼んでアイコンタクトしても通じるわけがない。
黒髪で赤い瞳、同じ色を持っていたとしても別人で、剣だって私が魔法を使うくらいの頼りなさだ。そんな人に頼ってどうする。
白く鋭い牙が迫ってくるのは分かる。でも目がアルから離せないし、剣は瞳に深く突き刺したまま。抜こうとしてもその前に致命傷を負い、間に合わないだろう。
ごめん、と。心の中で呟いた。
彼はきっと人が死ぬ瞬間を見て前世の私のように悔やむのだろう。
あぁ、やっぱり私には誰も守れない。
前世で失敗してあれだけ後悔しておきながら、また過信して守れなかった。
そんな中、ひたすら見つめていたアルは呟いた。
「了解」
距離的にも聞こえるはずないし、きっと声にも出されてはいなかった言葉。
けど、私にはしっかり聞こえた。
それは戦いの終わりを告げる呪文。諸悪の根源を滅ぼす呪文だった。
「【レベル6 ウィンドカッター】」
間近にあった首は両方とも根本から切り取られ離れていき、それに合わせて力のなくなった胴体が傾く。
私はなんとか正気にかえり、それが倒れるより前に地に降りた。剣はちゃんと抜き取って、アルのすぐ横に。
胴体が倒れる改めて見るとやはり迫力があり、首を切り落とされ、目を貫かれた無残な遺骸と化している。
誰だよ目を潰すなんて酷いことしたの。
「アル……暴走してごめん。これ返す」
剣を差し出して固まったのは、戦闘後初めて見たアルの表情が形容しがたいものだったから。
恐れ、不安、悲しみ、怒り……どれか、いや全部を混ぜて一つに合わせたような。
「アルどうし、うわっ」
訳がわからなくなって尋ねようとしたら抱きしめられた。
「ど、どどどっどうしたの!?なんで」
ほんとお兄ちゃんとお父さん以外に男性免疫ないからパニックなのですけど?
抱きつかれる理由あったっけ。
アルは恋人か?否。
アルは友達か?たぶん違うよね。友達でありたいとは思うけど、慰めてくれたり、最近では勉強を教えてもらうくらいで。
あれ、どこから友達なんだろう?
混乱して別の疑問が出てきた。
「……無事で良かった」
普段、生意気なことしか言わないのに。アルファイドから出たのは掠れていて、この距離でないと聞こえないくらいの小さな弱々しい声だった。
「なんで一人で突っ走るんだよ!死んでたかもしれない、いや俺が魔法を使えなかったら死んでた。それに俺だって全てを守れる訳じゃない。俺たちは最下位ペアだろ。もっと自重しろよ」
「……ごめんなさい」
心配、してくれたんだ。怒っているんじゃなくて。これほど動揺するまでまでに。
きっとアルはいい人なんだ。知り合って間もない、ただのペアな私をこれほど心配できるほど。
アルは素っ気ないって印象だったけど違ったみたい。
そっと剣を持っていない方の手で、背中をとんとんした。
しばらく腕が緩むことがなかったけど、そうすることで徐々に緊張が緩んできたのかやがて解放してくれた。
「はい。改めてありがとう。剣は剣士にとっては命のようなものだから、戦闘中は離してはダメだわ」
そしてやっと剣を返す。
私が言える立場でもないけれどね。
「ああ、以後気をつける。それと……大丈夫か?」
「えぇ、怖かったけど怪我もしてないし」
「じゃなくて」
首を傾げる。彼が言わんとしていることが分からなくて。
「手が震えている」
言われて初めて気がついた。
剣を持っていた手が小刻みに震えていて、冷たくなっている。
「怖……かった」
「それはそうだろう。ドラゴンなんて学生のうちから戦うことは滅多にない」
ううん、そうじゃない。そうじゃなくて、また守れない同じ過ちを繰り返すのが怖かったのだ。
わざわざ否定するのも憚られたので何も言わないでおく。
アルファイドが石を拾い上げた。
深い、冬空のような青の透けた石を。
さっきの三つ首ドラゴンの魔石だ。
その色の濃さからは敵の強さが窺える。
「さっきは抱きついたりしてすまなかった。動揺してしまった、というのは言い訳にはならないな」
「……ううん」
気にしないで、危ない行動した私が悪いのだから。
心の中では言えた。だけど口にすることなく視界が揺れた。いつも大事なことを言い逃すのはどうしてかな。




