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森の中は意外と明るい。
期待通りの魔物はきちんと存在してくれていた。
強い日差しのみ遮られるので、涼しく快適。
左にスライム、右にコボルトが現れる。
どちらにも戦意がないことに罪悪感はあったが躊躇わない。戦場では躊躇いなど不要だ。
「【レベル3 ファイア】焼き払って」
左でスライムをやっつけていると、アルファイドが右でコボルトを切る。
なかなかの連帯ができた。
スライム(だった焼き焦げた何か)の中から薄い水色の小片を取り出す。
この子には非はないけど、成績に必要だし、何より放っておいたら合体して更に強い魔物になることだってあるのだ。
ビッグスライムとかデカビッグスライムとか……。
ネーミングについては突っ込まないでほしい。大昔の偉いお方がつけた実に適当、いや失礼。分かりやすい名前なのだ。
そして上位になればなるほど厄介。
やはり滅するのが最適解。
延々と歩きながら私がスライム、アルファイドがコボルトを倒していく。出てくる比率は同じようなところ。
たまにオークのような、ちょっと強めの魔物も出会ったけど気の影に隠れてやり過ごした。オークが相手では魔法を放ちまくっても、彼が剣を刺しまくっても勝てるか怪しいから。
奴らは面の皮も皮膚の皮も厚く丈夫なのだ。綺麗な状態ならちなみに皮を剥ぎ買取店に持っていけば小遣い稼ぎになる。私たちの技量でそれができないのは実に残念だ。
そんなこんなでスライム&コボルトを倒しまくり、授業前に学校で配給された小型の袋に薄水色の小片をいっぱい集めることができた。
「もう、いいかしら。取りすぎてもこの袋から溢れてしまうわ。収納魔法もあるらしいけど、私は残念ながら使えないし、他に袋も持っていないから」
私たちは最下位ペア。いわば最弱だ。だからあまり深追いをしてはならない。
奥に行けば行くほど強敵から撤退するのも難しくなる。
「そうだな。これくらいにしておこう。これより奥に行っても強い魔物が出るだろうし、帰るのにも時間がかかる。そしたら怪我のリスクが増えるからな」
頷きあって引き返そうと踵を返そうとする。
帰りに魔石をゲットしてもポケットにはまだ入りそうね、なんて考えてた時ものすごく近くで女子の悲鳴が聞こえた。
キャーみたいに可愛いのじゃなくて、本当に切迫詰まったようなギギャァーーー。
一瞬魔物と勘違いしたとは本人には言えないが……。
「ねぇ、アルファイド今の!!」
「あぁ」
問いかけると、視線は悲鳴が聞こえた方向だったが返事は返ってきた。
「助けに行く、それかこのまま帰る」
ペアである彼に二つの案を出す。
だって危険は少ないだろうから。
大方あの子達はオークレベルの魔物に出会って腰を抜かしたのだろう。なら、手を引っ張って走って逃げれば良い。
見捨てて逃げるのが一番安全。
だけどあの子たちはクラスメイトだし見捨てたら後味が悪そうだ。
「何言ってんだ、決まってんだろ。そんなの助けに行くに決まってる」
「よしっ!行こう」
ノリのいいペアでよかったわ。
「はぁ!?なんでお前まで行こうとしてるんだよ。危ないかもしれない、お前はここにいろ。戦う術がないだろう」
全言撤回。ノリは全く良くなかった。そこは一緒に助けに走るところでしょう!!
「いいえ、私も行くわ。だってあなたも最下位人間なのよ!?それにペアよ?そんなの、私だけ無事であなたが怪我なんてしたらとてつもなく後味悪いじゃないの。きっと大丈夫だから」
じっと、私の目を見つめてやがて口を開いた。
「勝算はあるんだろうな」
「ええ!もちろん」
面倒なことはできる限り避けたいよ?もちろん。けど、誰かの危険を犠牲にしてまで避けたい訳じゃないのだ。
「知っている。その目をする人は確信を持っているということを」
やがて彼は頷いて目配せした。
「安全第一、助けるより自分の身を守れよ」
「分かってるわ」
アルファイドはとても着いてきて欲しくなさそうな顔をしている。
だけど、時間がなくて説得する余裕がなくて仕方なく了承したみたいだ。




