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そうか。『弱い』の基準が前世のままだったんだ。魔法が不得意なのを忘れてた。
例え当時は弱いような魔法でも、魔法そのものが変わらず私が弱くなったのなら強化魔法を強く感じても全く不思議なことはない。
そんなことすら忘れていた。
先生はある一定量のダメージを与えれば良いと言った。その一定量が生徒にすぐ破られるようなものであるわけがない。
こういうものは大概、平均を利用する。ちなみに私は魔法科の最下位……。
手のひらを見つめ沈黙してしまう。
改めて弱さを実感してしまった。
「手を止めるな。そんな暇があるなら魔法を的にぶつけろ!」
声をかけてきたのは他でもないペアだった。
話しながらも剣を振る手を止めはしない。視線だけをこちらに向けてくる。
そして手元に目がいってないからか危なっかしい。
「アルファイド……」
「お前、メンタル脆すぎ。休み時間もそうだったけど気にしすぎなんだよ。そんなんじゃ強くなんてなれないぞ。確かに俺らは学園最弱かもしれない。だけど比べてどうすんだ?敵は自分だ。初日の意気込みはどうした?」
だって……。
喉元まで出かけたけど言えなかった。
きっと言ってしまったら、それこそ自己嫌悪に陥ってしまうから。
彼は私を見捨ててもいいだろう。ペア制とはいえ声をかけて励まそうとするのは義務ではない。
なのに励ましてくれている……のか?若干キレてもいるようだけど。
それでも昨日の彼の態度を思い出して腹が立ってきた。
うん、言ったよ。
頑張るとも、絶対に強くなるとも。
だから折れてしまいかけた自分を消すために再び的に向かった。
弱くても、最下位でも、それでも。
いくらか魔法をぶつけたら僅かだけどけようか強化魔法が緩んできたのだって感じられる。
「ここに入ったってことはお前も目標とするものがあるんだろう。なら途中で弱気になるな」
「ええ」
そこからはお互いに一言も話さなかった。
ひたすら的に攻撃した。
私は火球を、アルファイドは剣を当てて。
クラスメイトが一人抜け、二人抜け、隣の子が抜けて……。
少しずつコツを掴んで。
次第に的の中央に当たるようになって。
とうとう私達二人になって夕日が地平線に消えかける頃、ほとんど同時に的を破壊した。
へとへとを通り越してゲロゲロだ。動かず棒立ちしていたので足はパンパンだし、魔法の発動のため集中力も限界だ。
授業とはこれほど体力のいるものなのか……。
「お疲れ」
「アルファイドこそお疲れ様。それから……ありがとう」
ゲロゲロでもヘトヘトでもお礼だけは伝えておきたかった。
それから私達はなんとかレポートを書き上げた。絶対に他の生徒のものより丁寧な自信がある。
実技が壊滅的だった分、提出物くらいはまともに仕上げておきたいから。
「失礼します。リーン•スレイブとアルファイド•グラファイです。レポートの提出に参りました。メル先生はいらっしゃいますか?」
時間が遅くなったので、教員室にはいないかも……。
なんてのは杞憂に終わった。
「いますよ。お入りなさい」
メル先生は一人で部屋に残っていたのだ。
私たちを待っていてくださった?
先生は満面の笑みでレポートを受け取る。
「よく最後まで諦めずに頑張りましたね。実は心配していたの」
「心配、ですか?」
「ええ、失礼でしょうがどちらかが折れてしまうと予測していました。ですが、今、こうして二人ともが来てくれた。とても嬉しいわ」
図星だ。
見通していたのだ。はっきりとはおっしゃらないけど、私が折れることを。
だけど、ちゃんと提出に来た。来られた。
それは私だけの力でない。
「……先生。私、一度はやる気が消えかけていたのです。ですが、アルファイドが声をかけてくれたので、私はここにいられるのです」
ちらっとアルファイドを見ながら、先生に真実を語る。ここで事実を隠してしまうことは簡単だ。だけど、ここまで頑張ってこられたのは間違いなくアルファイドのおかげなのだから。
「俺は別に。実際に諦めなかったのはお前だ」
「ふふっ。あなた達はいいペアになりそうね」
なれたらいいな。
せっかく縁があったのだから。
アルファイドは友達を作ろうとしないと言った。あまり友達に積極的ではなさそう。
無理して友達になろうなんてしない。
私が友達作りに向いていないのは分かった。
だから、ペアとして仲良くできたらいいと思う。