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学園には大きなホールがある。


白い大理石の床は良く磨かれていて、上の天井は描かれた美麗な絵画が霞んで見えるほど高い。ここは舞踏会やダンスパーティーを開く場所でもあるそうだからそういったことに使うためだろう。

王都ってすごい、都会ってすごい。このホール一つで地元の家が何軒建つのだろう。

寮で寝落ちした翌朝、昨夜食べそびれた分もたくさん食べてからこの場所へ来た。

そしてこの大きなホールに私たち新入生は集められている。


いよいよペアとご対面だ。

ここに入る前、成績の順につけられた番号が記された紙を渡された。この番号が同じ人が剣士科で同じレベルの人、つまりペアだ。

ペアとはこれから科ごとの授業以外で日々を共にすることになる。

科ごとの授業と合同は半々だから学校生活の多くが一緒だ。特に課外授業、実践授業ではこの相性が鍵となる。

成績上位者でペアと馬が合わなければその授業の成績が落ち、単位が足りなくなることもしばしばあるとか。

できる限り行動を共にせよ、みたいなことが生徒手帳の校則欄にあった。戦うときに剣士と魔法使いは協力することが多いが、わざわざ校則にすることかな。


「はぁ〜……」


周りははしゃいでペアを探すため動き回ったり、声を出したりして探しあっている。


特に成績上位者なんて紙を見せまくっている。良い成績なら自慢したくなるのは当たり前だよね。

その光景がいっそう悔しくて紙を握り締めた。

ぐしゃり。

紙が潰される音は周りの騒音で掻き消された。

書かれてあった数字は『200』。

それは今年の新入生の数とぴったり一致する。

つまり最下位……。

魔法は苦手である程度成績が悪いのも覚悟していた。でも一番下なんて……。


筆記も歴史以外は惨敗だったからな……。

自信は最初からなかった。

努力は報われるとか嘘だと思う。自分なりに努力はした。問題集もたくさん解いたし、分からなかった箇所は何度も解き直した。本番も本気を出したつもりだった。

けれど手応えを感じることはできなくて。この通りの結果だ。

もしかしたらみんなもできなかったかもなんて期待もした。だけどそうではなかったのだ。

いざ真実を突きつけられるとげんなりしてしまい、とても人探しをする気力なんて出そうにない。

でも、それでも……苦手でも魔法の道を諦めることなんて選択肢にすらない。

柱の影になっている隅の壁にもたれ、ぼんやりと楽しそうな人達を傍観する。

同年代とワイワイし合って楽しそうで青春だな、なんておばちゃんみたいこと考えて……。まんざら間違いでもないか。合計したら精神年齢はそんなものだろうし。


にしても見つからない。相手も私を探してなさそう。

そりゃそうだ。同じ心情のはず。

人がみんなはけたら残るだろう。そしたら声をかけよう。

喧騒に目が疲れてきて瞼を閉じた。賑やかな中で自分にだけ暗闇が訪れた。

目を閉じて思い出すのは前世のこと。

アルキオネ様の護衛をしていた時、幾度も社交会を見てきた。今のこの光景は少しそのときに似ている。

綺麗なドレス、美味しそうなデザート。同年代の女性の談笑。どれもこれも素敵だった。だけど私がその中に入れるわけもなく……。

羨ましさとかの前に遠過ぎて、見ているだけで精一杯。

アルキオネ様が女性とダンスをする時は手持ち無沙汰でこうして影にいたっけ。影から刺客がいないかを見張っていた。

あの時ばかりは貴族の女性の方に憧れを抱いてしまった。


「見つけた」


どこかで聞いたことがあるような声がしてはっと顔を上げる。

真っ黒な黒髪に赤い瞳。

この人は、あの時の!!


「リレイユールのファンの人?……もしかして200なの」

「なんだその覚え方。お前こそアルキオネのファンで人のこと言えないだろ。そして200だよ。忌々しいことにな」


あえて何の番号か告げずに話してみたが伝わった。ということはこの人がペア。

なんだか微妙。名前がリンから変えられているとはいえ、自分のファンとか。


「お前、名前は?」


そういえば昨日は結構な長話をしたのに名前すら交換していなかった。


「リーンよ。リーン•スレイブ」







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