プロローグ
よろしくお願いします!
前世から後悔していることがある。
「約束な。戦争が終わったら必ずまたこの木の下で逢おう」
そう約束したのに。
今でもこの約束を一言一句間違えずに覚えている。青々と繁る巨木の下、木漏れ日に照らされながら、私が大切な人とした約束だった。
もしも来世があるなら今度は大切なものを守れるようになりたい。
守ると誓ったのに、たった一人の大切な人すら守れなかった。
そのためだけに一生懸命頑張って強くなったのに。側にいることも許してもらえたのに、それに応えられなかった。自分の努力にもあの人にもらった信頼も裏切ったのだ。
なんて不甲斐ない。
生まれ変わったなら、あなたはあなたを守れなかった私をもう一度側に置いてくれますか?
私の仕えた主、そして大好きだった人。
まだ、あの大木の下で話したことも、その力強く優しい眼差しも、扱う魔法の美しさも、何一つ欠けることなく覚えている。
死んでも忘れない、と言うのは無責任すぎますよね。死んだ後の保証など無いのですから。
それでもそれだけあなたのことを慕っていた。
一生懸命鍛えた剣の腕。
剣を持つには遅すぎる年齢と揶揄されても諦めず、何度落とした剣を拾い直したことか。
これなら適う者はいない、私以上に鍛錬した人などいない。
私は自分を剣聖だと信じて疑わなかった。周りの人々にも天才だと持て囃されて。ある種の暗示にかかっていたのかもしれない。
だけど、過信で……。強くとも一瞬でも気が抜けてしまったら意味などない。戦場では、その一瞬で命が刈られてしまうのだから。どれだけの量と時間をかけて研鑽を積もうと。
そもそも強いと自負していたことすら間違いだったのだ。
本当に強い人は現状に満足することはなく、強さに驕ることもない。
あぁ、そうか……。
もう、剣は手放そう。
剣に頼ってるうちは変われない。剣を持つことで己が強いと錯覚してしまうなら、もう持つべきではない。
剣では助けられなかった。
咄嗟に抜けず、我が身を盾にした。
だから、やはり剣は私には駄目なのだ。持つ資格がない。
なら次は?どうやってこの身と貴方を守れば?
そういえば憧れていた。あなたの魔法に。仕える身でありながらその魔法に何度も助けられた。あの綺麗な魔法。
今度は魔法を使ってみようか。
上手くいかないかもしれない。それでも、剣を持ち驕って生きるよりも余程ましになれるだろう。
あの人のような魔法が使えるようになったら、必ず探し出して守らせてもらえるようお願いしよう。許してもらえなくて構わない。
一度守れなかったのだから当たり前だ。
それでもまた隣に立ち守りたいのだ。
今度こそ。
遠くで誰かが呼ぶ声がする。
これは……これは前世の夢?
「……ン。リーン!」
やっぱり呼ばれてる。行かないと。
声の方向には光があった。
その光に手を伸ばす。光に向かえば向かうほど春の日溜まりのように暖かく、身体がぽかぽかしてくる。
前世も大切だけど、今は今で大切な人達がいて私を待ってくれているのだから。