第7話:サロン見学と本格的な技術向上
「プロの技、間近で見てみたない?」
瑞希の一言で、颯太たちはネイルサロンを見学することになった。
店内に足を踏み入れると、心地よいアロマの香りと落ち着いた音楽が流れ、洗練された空間が広がっていた。施術スペースでは、ネイリストが流れるような手さばきで甘皮を処理し、ジェルを塗っている。
「……すごい」
颯太は思わず息をのんだ。ネイリストの指先が迷いなく動き、爪の形が整えられていくたびに、施術を受けるお客さんの表情がほころんでいく。その様子を見て、颯太は胸の奥がざわつくのを感じた。『俺も、こんな風にできるようになりたい……』
「こうやってプロの技を見てると、自分の未熟さを思い知らされるな……」
呟いた言葉に、隣で見ていた瑞希がクスッと笑う。
「ほらな?プロの現場は甘ないやろ?」
オーナーネイリストが颯太に気づき、声をかけた。
「ネイル、勉強しとるんやって?」
「はい、3級は取りました。でも、まだまだ全然で……」
「せっかくやし、ちょっとやってみる?」
「えっ、いいんですか!?」
驚く颯太に、オーナーは微笑む。「うちのスタッフがフォローするから、試しにやってみ?」
颯太は深呼吸し、緊張しながらもスタッフの手を借りて施術を始めた。商店街のイベントでおばちゃんの手を触るのは平気やったのに、目の前のスタッフの手はなぜか意識してしまう。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。筆の動きがぎこちなく、思うように進まない。
「筆の角度、もうちょい寝かせて。そうそう、力を抜いて……」
スタッフの助言を受けながら手を動かすが、プロのようなスムーズさには程遠い。焦れば焦るほど、筆が思うように動かなくなった。
「2級試験はスピードも求められるで。制限時間内に、正確に仕上げなあかんのや。手際が悪いと仕上げが間に合わんし、焦ったらミスにもつながる。時間配分を考えて練習するのも大事やで」
「スピードか……確かに、ちょっとでも手間取ったら時間が足りひんよな……」
ミスをするたび、スタッフの視線がピクリと動く。その小さな反応に、プロの厳しさを痛感する。
「まだまだやな、俺……」
ふと、近くのネイリストがクスクスと笑いながら言った。
「颯太くん、ネイルしてあげよか?」
「い、いや、大丈夫です!」
思わず後ずさる颯太を見て、周囲がクスクス笑う。顔が熱くなり、手をどうすればいいのかわからなくなる。
(なんでこんなに緊張してんねん、俺……)
瑞希がからかうように肩をすくめた。
「見た目はイケイケやのに、ほんま女の人に免疫ないなぁ」
「そんなんちゃうし!」
菜奈もクスクス笑いながら、「でも、颯太先輩、思ったよりできてますよ」とフォローする。
プロの技術に圧倒され、緊張に振り回されながらも、颯太は確かな学びを得た。
見学を終えた帰り道、颯太はスマホでプロ仕様のネイル道具を検索した。
「よっしゃ、ちゃんとした道具そろえるか……って、これ、買えへんやん!?」
ネイル業者の通販サイトには、「サロン従業員・ネイルスクール生のみ購入可」の文字が並んでいる。
「プロの卸し店って、会員制なんか……」
瑞希が苦笑しながら、「せやで。プロの道具って、そう簡単には手に入らんねん。卸し店は会員制やし、ネイルスクールに通ってるか、サロンで働いてないと登録もできへん。みんな最初は市販品とか通販で工夫しながら練習するんやで」と肩を叩く。
「結局、通販で買うしかないか……」
プロの世界の厳しさを改めて実感しながらも、颯太はさらなる技術向上を誓った。
次回、第8話『フットケアとの出会いと新たな視点』
「ネイルって、手だけちゃうねんで?」
瑞希の言葉をきっかけに、颯太はフットケアの世界に足を踏み入れることに。ハンドとは違う技術に戸惑いながらも、新たな視点を得る。果たして、颯太のネイル技術はどこまで進化するのか――。