第6話:3級試験への挑戦と成長
「3級試験って、まずはネイルケアからやるんやで」
放課後の実習室。瑞希がネイル道具を並べながら、颯太を見た。
「ほんなら、まずは試験の内容を頭に入れとこか。その前に、なんで受けようと思ったん?」
颯太は少し考え込む。「この前のおばちゃん、めっちゃ喜んでくれてたな……。ちゃんと勉強したら、もっと上手くできるんちゃうかって思ったんや」
瑞希はニヤリと笑った。「ええやん。その意気やで」
そう言いながら、スマホを開き、試験要項を確認する。
「3級は、爪の形整えて、甘皮処理して、カラーリングするんが基本やな」
遅れてやってきた菜奈が言う「ネイルアートとかないん?」
「3級はシンプルなカラーリングだけや。見た目より、ケアの技術が大事なんやで」
颯太は少し拍子抜けした。アートの練習ばかりしていたが、まずは基礎が重要なのだと痛感する。
「てことで、今日は甘皮処理の練習や。そのあと、カラーリングも試してみよか」
瑞希が自分の手を差し出す。「ほら、やってみ?」
「え、瑞希先輩の手!?」
おばちゃんの手には平気で触れたのに、瑞希の手となると一気に緊張する。颯太は手汗をぬぐい、慎重にプッシャーを握った。
「力入りすぎや。甘皮は優しく押し上げるんやで」
「お、おう……」
瑞希の指導を受けながら、ぎこちなくも手を動かす。思ったより難しく、すぐに甘皮を傷つけそうになる。
「そんなんやと、お客さん痛がるで?」
「す、すんません……」
何度かやり直しながら、少しずつコツを掴んでいく。
「まあ、最初はこんなもんや。続けてれば、ちゃんとできるようになる」
瑞希はふと思い出したように言った。「私の時は、甘皮処理で減点されてん。でもそれがあったから、しっかり練習したんよ」
「先輩でもミスするんやな……」
「当たり前や。せやから、今のうちに苦手を潰しとこ」
瑞希が満足げに頷く。
「よし、次はカラーやな。筆の使い方にも慣れとこ」
颯太は頷きながら筆を手に取ったが、力加減を誤り、ペンキのように絵の具が指に飛んだ。
「うわっ!?なんやこれ……」
菜奈が吹き出す。「子供の工作みたいやな!」
瑞希も腕を組みながら笑う。「これはもうアートやな!なんや、前衛芸術ってやつか?展示したらええ感じになるんちゃう?」
「ちゃうし!」
顔を赤くしながら慌てて手を拭う颯太。けれど、和やかな雰囲気に緊張が少しほぐれた。
「試験まで時間あるし、しっかり練習しよな。今週は甘皮処理とファイリング、来週からカラーリングやっていこか」
計画を立てながら、颯太は改めて気が引き締まるのを感じた。
こうして、颯太の3級試験に向けた特訓が始まった。
***
試験当日。
待合室で、颯太は手汗を拭いながら深呼吸した。
(落ち着け……落ち着け……)
目の前に座る受験者たちは、プロ仕様のネイル道具を揃えていた。
「え、みんな道具ガチすぎひん?」
思わず小声で呟くと、隣の菜奈が「うちらも負けてへんで」と励ましてくれた。
施術開始直後、手元を見つめすぎて顔を近づけすぎたらしく、「うわっ、顔近すぎる!」と菜奈に突っ込まれ、赤面する。
「頑張れや」と小声で囁かれ、緊張が和らいだ。
試験後、「できることはやった」と充実感を覚えながらも、ふと手元を見つめた。指先に残るわずかな緊張の痕跡。それでも、これまでの努力が形になった気がする。「もっと上手くなれるはずや……!」と小さく呟き、次の目標へ向かう決意を固めた。
そして合格発表の日——。
「合格や!」
颯太が喜びを噛み締めていると、瑞希が軽く肩をすくめながら笑った。
「ほな、次は2級でも受けとく?」
「……プレッシャーかけんといて!」
次回、『サロン見学と本格的な技術向上』
「プロの技、見てみたいんやろ?」
瑞希の提案で、颯太たちは実際のネイルサロンを見学することに。プロの施術に衝撃を受ける颯太は、新たな課題に直面する――。