第3話:試行錯誤の日々と、成長への道
「おい、集中せえや」
瑞希の声に、颯太はハッとして手元を見た。
「うわっ、ズレた!」
ネイルブラシを握る手が震え、思い描いたラインとは違う方向に筆先が滑っていた。
「右手でやる分には、まあまあやけど……」
瑞希が腕を組み、少し眉をひそめながら呟く。「んー……」と考え込むような表情を見せ、じっくりと颯太の手元を観察していた。
「問題は左手やな」
颯太は苦い顔をした。利き手じゃない左手で筆を持つと、思うように動かせない。
「こんなに難しいとは思わんかった……」
「そらそうよ。セルフネイルは利き手と逆で塗るんが、一番めんどいねん。」
瑞希は当たり前のように言うが、颯太にとっては初めての壁だった。
「コツとかないん?」
「慣れやな」
「それが一番キツい……」
ため息をつきながら、再び筆を持つ。手元を見つめ、慎重に動かすが、やはり思い通りにはいかない。
「んー……やっぱアカン!」
「力入りすぎやねん。筆を持つってより、指先を支える感覚で動かしてみ」
「指先を……支える?」
「そ。筆を持つ手ばっか意識しとるやろ?せやなくて、塗る側の指も意識して固定するんよ」
瑞希が自分の爪にブラシを当てながら、ゆっくりと見せてくれる。その動きに合わせて、颯太ももう一度チャレンジ。
「……あ、さっきよりマシかも?」
瑞希はニヤッと笑った。
「ええやん。そんくらいの手応えがあれば、続けていけるで」
練習を続けるうちに、少しずつ筆の動かし方がわかってきた。
(思ったより難しい……でも、できるようになりたい)
こうして、颯太の試行錯誤の日々が始まった。
次回、『菜奈との出会いと試験準備』
「モデル?ええけど、条件つけてもええ?」
ライブ好きな後輩・菜奈が颯太のネイルに興味を持つ。試験に向けた練習のため、モデルをお願いするが、彼女の提案とは……?