第20話:イベント本番と予想外の出会い
ついに、福祉施設での「おしゃれ体験イベント」本番の日がやってきた。
会場には朝から多くの利用者が訪れ、ネイルやフットケア、ヘアセットやメイクを楽しむ姿が見られた。颯太たちは受付や施術に追われながらも、できる限り丁寧に対応しようと奮闘していた。
「思ってた以上に人、多いな……!」
瑞希が目を丸くしながら、受付の名簿を確認する。
「ほんまやな。想像以上や……!菜奈、そっちは大丈夫か?」
「余裕!うちのライブ会場の物販よりマシや!」
そんなやりとりをしていると、一人の男性が興味深そうに3Dネイルチップのブースを覗き込んでいた。
「すごい技術ですね。これ、どのように作られているんですか?」
颯太が振り向くと、そこに立っていたのは義肢装具士の肩書きを持つ男性だった。
「義肢装具士……?」
「ええ。義手や義足のフィット感を高めるために、3Dスキャンやカスタムメイドの技術を活用しています。この技術を使えば、ネイルチップのフィット感も格段に向上するかもしれませんね。」
颯太は思わず息をのんだ。
「ネイルチップも、より精密に作れば、装着感を向上させられる……?」
「ええ、それに、医療と美容の橋渡しとして、患者さんの生活の質を向上させる可能性もありますよ。」
その言葉に、颯太の頭の中で新しい可能性が広がっていく。
「すごい……!これ、もっと詳しく聞かせてもらえますか?」
そんな話をしている間にも、会場の混雑は増していった。
「颯太くん!受付前に列ができてるで!ネイル体験の順番待ち、もうすぐ20人超えそうや!」
木村さんが慌てて駆け寄ってくる。
「うわっ、マジか!?」
「うちがヘアメイクのブースも手伝うし、なんとか分担して対応しよ!」
瑞希や菜奈、木村さんの機転のおかげで、なんとか混乱を避けつつイベントを進めることができた。
そんな中、利用者の一人が興味深そうに3Dネイルチップを眺めていた。
「これ、どこで買えるん?」
その問いに、颯太は一瞬言葉を詰まらせた。
「えっと……まだ量産できる体制じゃなくて……」
実験段階であることを説明すると、利用者は少し残念そうな表情を浮かべた。
その様子を見ていた紗良が、ふいに口を開いた。
「最初はネイルをすることすら怖かったけど、今は違う。誰かのためにできることがあるなら……私も3Dネイルチップ作りを手伝いたい。」
颯太は驚いて紗良を見つめた。
「紗良……?」
「火傷の跡を隠すためにネイルをするんじゃなくて、誰かのために役立つ技術を知りたい。もし、私にできることがあるなら、やってみたい。」
その言葉に、颯太はゆっくりと頷いた。
「……一緒にやろう。」
新たな挑戦が、また始まろうとしていた——。
次回、『進路相談と葛藤』。
颯太の未来が、少しずつ形を成していく。