第2話:桜庭瑞希との出会い
放課後の実習室は、ほとんどの生徒が帰ったあとで静かだった。
颯太は窓際の机に座り、手元のネイルチップをじっと見つめる。
昨夜、試しに塗ったものだ。ムラはあるものの、初めてにしては悪くない……はず。
「何してんの?」
突然の声に肩が跳ねる。振り向くと、髪をツインテールにした女子が立っていた。
桜庭瑞希──三年生。落ち着いた雰囲気やけど、どこか存在感のある先輩や。髪は赤みがかった茶色で、さりげなくおしゃれ。派手に見えて、実は面倒見がよく、先生からの信頼も厚いらしい。
「え、あ……ちょっと実験を……」
颯太は慌ててネイルチップを隠そうとしたが、瑞希はすばやく手を伸ばして奪い取った。
「なにこれ、ネイル?」
「ち、違……いや、まあ、そうやけど……」
言い訳する間もなく、瑞希はじっとネイルチップを観察する。
「へえ、思ったよりちゃんとやってるやん。意外やな」
「意外って……」
「男の子がネイルって、珍しいしな。でも、面白いやん」
瑞希はニッと笑いながら、颯太にネイルチップを返した。
「で、誰にやるん?」
「え?」
「自分のためにやってるわけちゃうやろ?モデルいないと、練習にならんやん」
「……まあ、そうやけど」
「じゃ、あたしがモデルやったろか?」
颯太は思わず息をのんだ。
「え、先輩が?」
「そ。どうせなら、実際に人の手で練習した方がええやろ」
颯太は瑞希の手を見る。彼女の爪は、カラフルなデザインが施されていた。シンプルやけど、こだわりを感じる。
「でも、俺、まだ全然うまくないし……」
「だから練習するんやろ?」
瑞希は机の椅子を引いて、向かいに座る。
「遠慮せんと、好きにやってみ」
颯太はごくりと唾を飲んだ。
(俺、ほんまにネイルやるんか……?いや、やるんや!)
こうして、颯太のネイル修行が本格的に始まった。
次回、『試行錯誤の日々と、成長への道』
「右手はええねん。でも、左手が…!」
瑞希の指導のもと、練習を重ねる颯太。しかし、想像以上に難しく、思うようにいかない。果たして彼は、ネイルの技術を身につけられるのか?