第19話:福祉施設でのイベント準備
紗良が自分の手を受け入れるきっかけを掴んだ頃、颯太たちは次なるステップに進んでいた。
「今度、福祉施設でネイルとフットケアのイベントをやるんやって?」
瑞希が興味深そうに問いかけると、颯太は頷いた。
「せや。前に見学したときに、利用者さんの爪を整えるだけで表情が明るくなったのを見て、もっと多くの人に体験してもらいたいと思って」
「ええやん!でも、準備とか大変ちゃう?」
「それがな……」
颯太は苦笑しながら、準備の進捗を説明した。今回のイベントは、高峰先生の病院との連携で実施することが決まっていたが、スタッフの数や施術スペースの確保、衛生管理の問題など、考えるべき課題は山積みだった。施設側の協力は得られたものの、施術スペースの確保や衛生管理、スタッフの調整など、解決すべき課題はまだ多かった。
「私も手伝えることがあったら言ってな。ネイル以外でも、ヘアセットとか簡単なメイクとか、できることがあればやるし」
紗良がそう言ったとき、颯太と瑞希は驚いた表情を見せた。
「ほんまに?ええんか?」
紗良は少し迷うように視線を落としたが、すぐに顔を上げた。
「……最初は不安やったけど、私も何かできることがあればやってみたい。」
「私、今まで手を隠すことばっかり考えてたけど、ネイルを通じて誰かを喜ばせることができるんやって思ったら、ちょっと興味湧いてきて」
紗良はまだ少し照れくさそうだったが、その目には確かな意志が宿っていた。
「なら、一緒に準備進めよ!」
「おーい!楽しそうなことしてるやん!」
元気な声が響き、振り向くと菜奈が笑顔で手を振っていた。2年生になった彼女は、海外にライブを見に行くほど行動的になっていた。そんな菜奈も、イベントの手伝いに駆けつけてくれるという。
「最近は海外行くのも慣れてきたけど、やっぱり地元のイベントもええな。せっかくやし、私も何かやりたいねん。ネイルは無理でも、受付とかできるやろ?」
「助かるわ!ほんま、頼りにしてるで!」
さらに、菜奈の紹介で“オシャレ皇帝”木村さんも手伝いに参加することになった。
「イベントでしょ?なら、私の出番やん!」
彼女は美容やファッションに詳しく、ヘアセットやメイクのブースの担当を張り切って引き受けてくれた。「このイベントもっと華やかにしたるわ!」と意気込む姿に、颯太は少し圧倒されつつも頼もしさを感じた。
「そういえば、3Dネイルチップも使ってみるんやろ?」
瑞希の言葉に、颯太は大きく頷いた。
「せやな。今回は実際に高齢の方に試してもらう機会やし、事前に3Dスキャンをして、爪の形や厚みをデータ化してから、一人ひとりに合ったチップを作るんや」
瑞希がふと思い出したように言った。
「そういえば、介護職員初任者研修って知ってる?介護の現場で役立つ資格らしいで」
「初任者研修?」
「うん。ネイルの技術が福祉の分野でも活かせるかもしれへんし、一度調べてみたら?」
颯太は瑞希の言葉に考え込んだ。ネイルと介護、今までは結びつかないものだと思っていたが、これを機に少し勉強してみようと思った。
イベントの準備を進める中で、颯太は介護職員初任者研修の存在を知った。介護とネイルのつながりをより深く理解するために、研修を受けることも視野に入れ始めた。
こうして、颯太たちは福祉施設でのイベント成功に向けて本格的に動き出した。
次回、『イベント本番と予想外のトラブル』。
果たして、すべてうまくいくのか——。