第14話:3D技術を活用したネイルの可能性
放課後、颯太は瑞希とカフェにいた。久々の再会に、仕事の話を聞くのが楽しみだった。
「3Dプリンタの仕事って、どんな感じなん?」
颯太が尋ねると、瑞希はコーヒーを一口飲んでから「最初は覚えることばっかりやったけど、ようやく面白いことできるようになってきた」と笑った。
「どんなこと?」
「試作品のデータ作成とか、実際にプリンタ動かしてパーツ作るとか。最近は、義肢とか装具のカスタムパーツ作りに関わることもあってな」
「へぇ……」
颯太は興味深そうに聞いた。3Dプリンタは工業高校でも学んでいたが、実際の現場でどう使われているのかは知らなかった。
「でな、ふと思ったんやけど——3Dプリンタでネイルチップ作れへんかな?」
「え?」
「たとえば、巻き爪とか爪の形が崩れた人向けに、その人にぴったり合うチップを作るんや。スキャナで爪の形を正確に測って、それを元に3Dプリンタで作れば、市販品よりずっとフィットするやろ?」
瑞希の言葉に、颯太はフットケアの現場を思い出した。巻き爪矯正のためにプレートを貼る施術を見たことがある。もし、自分の技術と3Dプリンタが組み合わさったら——。
「……めっちゃおもろそうやん」
「せやろ?ちょっと試してみる価値あると思うんよ」
瑞希の提案に、颯太の心が躍った。
数日後、瑞希の職場にある3Dスキャナを使い、颯太の爪のデータを取ることになった。
「このスキャナ、非接触型で細かい凹凸まで測れるんや。爪のカーブや厚みまで正確にデータ化できるから、ジャストフィットのチップを作れるはず」
瑞希が説明しながらスキャンを進める。
「すげぇ……ほんまに爪の形そのままやん」
モニターに映し出された爪の3Dモデルを見て、颯太は驚いた。
「これを元に、まずはシンプルなチップを作ってみる。装飾はネイリストの技術で仕上げたほうが、完成度は高くなると思うしな」
瑞希の言葉に、颯太は大きく頷いた。
「やっぱり、ネイルの細かい仕上げは手作業のほうがええもんな」
3D技術とネイリストの技術。それが組み合わされば、新しいネイルの形が生まれるかもしれない。
「せやから、試作品ができたら高峰先生にも見てもらおうと思ってる。医療の視点からアドバイスもらえたら、もっと実用的なものになるやろ?」
瑞希の言葉に、颯太の中で新たな目標が生まれ始めていた。
次回、『藤崎紗良との出会い』。
病院で偶然出会った少女が、颯太の新たな挑戦へとつながる——。
3D技術がもたらすネイルの新たな可能性
ネイルの分野でも、最近は3D技術が注目されるようになってきました。医療や福祉の現場では、3Dスキャナを使った義肢や補助器具の製作が進んでおり、ネイルチップにも応用できるのでは?という期待が高まっています。ただ、まだ研究段階の部分が多く、実際の施術として一般的に広まっているわけではありません。
本作では、こうした技術の可能性をフィクションの中で描きながら、ネイルの持つさまざまな役割に目を向けています。3Dプリンタを使ったネイルチップの開発は、個々の爪の形にぴったり合うカスタムチップを作れるかもしれないという点で、今後の発展が期待される分野です。また、巻き爪や爪の変形に悩む人のために、より快適な補助具として活用できる可能性もあります。
本作はフィクションとしての創作を重視しておりますので、実際の医療や福祉の現場とは異なる部分もありますが、物語として楽しんでいただければ嬉しいです。