表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/82

(66)

 新たな魔道具開発に関する定例会議中、会議室のドアを叩く騒がしい音がした。


「なんだ?」


 アレックスは突然の来訪者に眉を顰める。部下のひとりがドアを開けて相手を確認すると、思いもよらない人物がそこには立っていた。


「ジェシカ? なぜここに?」


 ジェシカはよっぽど急いで来たのか、美しくまとめた髪が少し乱れていた。息も上がり、胸元が上下している。


「アレックス様! 大変なんです! 早く見つけないと──」


 ジェシカはアレックスに気付くと真っ直ぐに駆け寄ってきて、彼の胸元に両手を当てた。よく見ると、目には薄ら涙の膜ができている。


「ジェシカ、落ち着け。一体何があった?」


 アレックスはジェシカを落ち着かせようと、彼女の肩を両手で掴む。


「ルイスとレオンがいないんです」

「なんだって!?」


 アレックスは思わず大きな声で聞き返す。

 ふと、以前にもこんなことがあったと思い出す。あれは確か、アメイリの森にピクニックに行ったはずのルイスとイザベルが、誤って隣の危険な森に入り込んでしまったようだと連絡が来たときだった。

 だが、今日ルイスとイザベルが出かけたのは王宮だ。危険な魔物などいないし、迷子にもなりようがないはずだ。


「ルイスは最近、かくれんぼを好んでよく遊んでいた。どこかに隠れているのでは?」

「いいえ。どこにもいません。実はその少し前に、イザベル様が席を外されて──」

「イザベルもいないのか?」

 

 新たな事実にアレックスは衝撃を受ける。

 狼狽えてぽろぽろと涙を流し始めたジェシカをなんとか落ち着かせて、話を聞きだした。


「母上がイザベルを?」

「はい。女官の方がバルバラ様が急用でいらしていると言ってイザベル様を呼びに来たんです。そうこうするうちにイザベル様がいらっしゃらないことに気付いたルイスが自分が捜しに行くと言い出して、レオンとミゲル殿下もそれを追いかけてしまって──」


 聞いてすぐに違和感を覚えた。

 もし本当にイザベルに用があるなら、バルバラはアンドレウ侯爵家に来ればいいだけだ。その方が確実にイザベルに会えるし、女官に頼んで部屋を用意してもらったりする手間もなくなる。


「では、母上のところに四人ともいるのではないのか?」


アレックスは至極まっとうな指摘をした。

 バルバラがイザベルを呼び出し、そのイザベルを捜して子供達がいなくなった。普通に考えて、バルバラのいる場所に四人いると考えるのが自然だ。


「それが、いらしていないんです」

「なんだと?」

「バルバラ様は今日、王宮にはいらしておりませんでした」


 そこまで聞いて、アレックスは事の重大さを理解した。

 つまり、何者かが急用でバルバラが呼んでいると偽ってイザベルを誘い出し、どこかに連れ去った。さらには、イザベルがいないことに気付いた子供達まで一緒に連れ去られた可能性があるということだ。


「ミゲル殿下は無事なんだな?」

「はい。レオン達を追いかけて行こうとしたところを、ゴジョ様が捕まえて連れ戻しましたので。今、ゴジョ様の命で近衛騎士の方々がふたりを捜しているのですが──」

「なるほど」


 ミゲルが行方不明になっていないことだけが不幸中の幸いだ。

 だが、危機的状況であることに変わりはない。


(イザベルだと魔力が少なすぎる。ルイスを捜せば──)


 アレックスはすぐに意識を集中させ、王宮内にルイスの魔力の痕跡がないか捜し始める。すると、僅かに感じるものがあった。


「西の裏門の辺りにルイスの魔力を感じる。行こう」

「はい」


 ジェシカは頷く。


「すまないが、今日の会議は中止だ。続きは明日」


 アレックスは後ろを振り返ってそれだけ言い残すと、大急ぎで西の裏門へと向かった。


「この辺りか?」


 魔力を感じたのは、西の裏門まで数十メートルの場所だった。だが、辺りを見回しても誰もいない。


「どこだ?」


 アレックスは子供達の姿を捜して必死に周囲を見回す。そのとき、地面に何かが落ちていることに気付いた。


「これは──」


 アレックスは足元に落ちていたものを拾う。

 紐が付いた半透明の小石に、見覚えがあった。ルイスがお守りだと言って小石をたくさん渡してくるので、イザベルが紐を付けて飾りのように付けられるよう加工したのだ。


 アレックスは西門を見る。


「外に行ったのか?」

「外!?」


 ジェシカは口元に手を当てて青ざめる。王宮の外に出てしまうと、捜し出すのは困難になる。


「ああ、レオン!」


 両手で顔を覆い、ジェシカは泣き始める。

 アレックスは西門の前に立つ衛兵に声を掛ける。


「ここから、若い女と子供ふたりが出て行かなかったか? もしくは、運ばれていった可能性もある」

「見かけておりません」


 答える衛兵の目が泳いだことをアレックスは見逃さなかった。


 

3/2、3は更新おやすみします。

また、本日から縦読みマンガの商業新連載が始まりました。


「マッチングアプリなんて信じません!」(キャラデザ、ネーム、作画:漣ミサ先生/レーベル:ジャンプTOON)

https://jumptoon.com/series/JT00046/

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆書籍化のお知らせ◆

「悪虐継母に転生しましたが、未来のヤンデレが天使すぎて幸せです」フェアリーキスより2025年9月30日発売です!⇒公式サイトはこちらi1022953
― 新着の感想 ―
まぁ、貴族の婦人、子供拉致に関与した時点で一族郎党打ち首だろうね。さすがに鉱山奴隷とか甘い判決にはならないかな。王子の拉致の可能性あったなら尚更。門番の家族も御愁傷様です。
はぁ〜っ、めっちゃハラハラする〜。 みんなが無事でいて欲しいし、痛いとか辛いとかそういう状況になっていないと良いんだけど…。 ジェシカとしては、子供がいなくなって辛いよね…(涙) ジェシカのためのも、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ