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翌日、イザベルはルイスを連れて町に出掛けた。
以前イザベルの発案で建築することが決まった一般市民向けの公園が完成したので、開園前の確認に行くのだ。ジェシカとレオンも誘っていて、現地で落ち合うことになっている。
馬車で揺られること二十分でイザベルは目的の場所に到着した。元は魔術研究施設として利用していた場所なので、王都の繁華街にも出やすい便利な場所にあるのだ。
馬車を降りたルイスは目の前に広がる施設を見て目を輝かせる。
「わあ、すごい! おやしきのよりおおきい!」
笑顔で公園内に入っていくと、設置されている遊具を順番に眺めて行った。
「これはおやしきにあるやつとおなじだね。すべりだい。これはなに?」
「これはね。鉄棒よ」
「鉄棒?」
「こうやってくるりと回って遊ぶの」
イザベルは実演しようとしたが、ドレスを着ていて無理だと気づいて途中で止める。しかし、それでもルイスには伝わったようで、「こう?」と言って前回りを一回して見せた。
「そう! それよ! ルイス、すごいわ! 初めてなのに!」
ルイスが難なくやってのけたので、イザベルは興奮して褒めたたえる。
(顔よし、頭よし、魔法よし、さらには運動神経もいいなんて! 我が家の天使は何をとっても最高だわ!)
親バカと思われようとかまわない。だって、事実だし! と最近は開き直っている。
そうこうするうちに、「ルイス!」と可愛い声がした。声のほうを見ると、レオンが大きく手を振っていた。隣にはジェシカもいる。
「何しているの?」
「てつぼうだよ」
「てつぼう? どうやるの?」
「それはね──」
ルイスは今さっき覚えたばかりの鉄棒の前回りを披露する。すると、レオンも早速真似してやってのけた。未来の天才騎士団長だけあり、レオンも運動神経はとてもいいのだ。
「アンドレウ侯爵家とはまた違う遊具が沢山あるのですね」
ジェシカが物珍しそうに、公園内を見回す。
「ええ、そうなの。ここはアンドレウ侯爵家より広く場所が取れるから、せっかくなら色々作ってみようと思って」
この公園を設計するにあたり、イザベルはアンドレウ侯爵家にはない遊具を色々設置した。
今ルイス達が遊んでいる鉄棒の外に、のぼり棒やうんてい、ターザンロープ、それに砂場もある。
それぞれの遊具の遊び方を説明するたびに、レオンとルイスは大喜びして遊んでいた。
「イザベル様、すごいわ。そのアイデアはどこから湧いてくるの?」
ジェシカが興奮気味にイザベルに尋ねる。
イザベルが設置した遊具はどれもスランではまず見かけないものばかりなので、とても驚いているようだ。
「ええっと、遠い国でこういう遊び道具があるって聞いたことがあって──」
イザベルは曖昧に言葉を濁す。
アンドレウ侯爵家やこの公園に設置した遊具は全て前世ではよく見られるものばかりだ。しかし、前世の記憶を頼りに作りましたと言うわけにもいかない。
「へえ。イザベル様、とっても物知りなのですね」
ジェシカはイザベルの即席の言い訳をすっかり信じてしまったようで、しきりに感心している。
(なんか騙しているみたいで後ろめたいわ……)
イザベルはジェシカの称賛をやや申し訳ない気持ちで聞き流す。そのとき、ルイスが何かに気付いたようにイザベル達のほうに駆け寄ってきた。
「ルイス、どうしたの? もう飽きちゃった?」
イザベルはおやっと思ってルイスに話しかける。すると、ルイスはイザベルの背後を指さした。
「あのこ、さっきからずっとみてるの。いっしょにあそぼうってさそっていい?」
「あの子?」
イザベルは振り返る。公園の入り口に、ひとりの男の子が佇んでいるのが見えた。
ぱっと見で身なりがいいし、横には従者らしき男性もいる。恐らく、かなり高位の貴族の子どもに違いない。
(どこの家門の子どもかしら?)
残念ながらまだイザベルはジェシカ以外のママ友達がいないので、どこの家門の子どもかはわからなかった。
「ぼくさそってくる!」
「あっ、ルイス!」
ぱたぱたと駆けていくルイスをイザベルは慌てて追いかける。
「ねえ、いっしょにあそぼう!」
ルイスは入り口付近に立っていた男の子に声を掛ける。
(わっ、綺麗な子!)
ルイスが話しかけた子は、近くで見ると驚くほど綺麗な容姿をした男の子だった。
(何この子、人形みたい!)
輝く金色の髪に、青い瞳。年齢はルイスとそう変わらないくらいに見えるが、まるで人形のように整っている。
「私もまざっていいのか?」
「うん、いいよ!」
男の子に問いかけられ、ルイスは笑顔で頷く。すると、男の子は背後にいる従者のほうを見た。




