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 朝早くから起きて焼いたパウンドケーキとクッキーをお皿に盛り付け、屋敷中に飾られている花に萎れているものがないかをチェックする。

 客間を見渡したイザベルは、どこにも不備がないことを確認して「よし!」と頷いた。


「これで準備は完璧ね」

「もうすぐくるの?」

「ええ。もうすぐよ」


 イザベルはスカートをちょこんと掴んでぴったりくっついてきているルイスに微笑みかけた。

 今日は、アンドレウ侯爵家に来客がある予定だ。ルイスに同年代のお友達がいないという相談をバルバラにしたところ紹介された、アレックスの従姉妹であるジェシカとその息子だ。


「ぼく、たのしみ」

「そうね」


 ルイスはうきうきしながら、窓の外を眺める。そのちょこんとした後ろ姿がたまらなく可愛い。


(よっぽど楽しみなのね)


 にこにこしながらその後ろ姿を眺めていると、ルイスが「あ!」と叫ぶ。


「ばしゃがきた」


 窓の外を指さすルイスの後ろから窓の外を窺う。彼の言う通り、黒塗りの豪華な馬車が屋敷の入り口で止まっているのが見えた。門番と御者が何か言葉を交わし、門が開かれる。

 屋敷の馬車寄せまで来て停止した馬車からは、腰まである長い銀髪の女性とまだ小さな子供が降りてくるのが見えた。


「いらしたわ。お迎えに行きましょう」

「うん」


 イザベルはルイスを連れて、玄関へ向かう。

 そこでふたりを出迎えたイザベルは、彼らを見て衝撃を受けた。


(天使だわ! 第二の天使がいる!)


 ジェシカもアレックスにどこか似ていてとても美人なのだが、それよりもっと衝撃なのは連れている子供のほうだ。銀色の髪に、大きな緑色の瞳。幼いながらもやや涼し気な顔立ちをしていてルイスとはタイプが違うが、とても可愛らしい男の子だった。


「ようこそいらっしゃいました。イザベル・アンドレウと申します」


 イザベルは興奮する気持ちを必死に抑え、丁寧に腰を折る。


「ルイス・アンドレウです」


 ルイスもイザベルに倣って、ぺこりと頭を下げた。すると、ジェシカはにこりと微笑む。


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。ジェシカ・マルチネスでございます。ルイスは随分大きくなったわね。最後に会ったのは、まだ赤ちゃんの頃だったかしら」


 ルイスはジェシカに話しかけられ、きょとんとした顔でイザベルを見上げる。小さな頃に会ったことがあるようだが、ルイスは小さすぎて覚えていないようだ。


「レオン。ご挨拶を」


 ジェシカは横にいる息子に声を掛ける。


「レオン・マルチネスです。よろしくお願いします」


(レオン・マルチネス? どこかで聞いた気が──)


 なんとなく聞き覚えのある名前のような気がしたが、どこで聞いたのか思い出せない。


「はじめまして、レオン。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」


 ルイスと同じ四歳とバルバラからは聞いていたが、礼儀正しく活舌もよく、〝しっかりした子〟という印象を受けた。


 イザベルは早速ふたりを応接間へと案内する。

 部屋には、つい最近ルイスに買ってあげた積み木や簡単な形合わせ、木馬の乗り物、お絵かき道具などが置かれていた。


「わあ!」


 しっかりとしたように見えても、四歳は四歳。レオンは部屋に置いてあるおもちゃを見て目を輝かせた。歓声を上げて、おもちゃに駆け寄っていく。


「それはね、こうしてあそぶの」


 ルイスも駆け寄って、レオンがいじっているおもちゃについて説明する。同じ男の子同士、年齢も同じこともあって、ふたりはすぐに意気投合して遊び始めた。


(ふふっ、楽しそう。大奥様に頼んでよかった)


 イザベルは楽しそうなルイスの横顔を見て口元を綻ばせる。イザベルが遊んであげるときも楽しそうにはしているのだが、同年代の子どもと遊ぶのはまた違う楽しさがあるのだろう。


「ジェシカ様はこちらに。すぐに紅茶を淹れますね。お好みはありますか? なければわたくしのおすすめをご用意させていただきます」

「なんでも飲めるので、イザベル様のおすすめをお願いします」

「はい、もちろん」


 イザベルはエマが用意してくれたティーポットに茶葉を入れると、ゆっくりと蒸らす。それをティーカップに注いでジェシカに出すと、ジェシカはカップを口元に近づけて首を傾げた。


「なんだかフルーティーな香りがするわ。なんの紅茶かしら?」

「ルイボスティーです」

「ルイボスティー?」

「はい。苦みがなくて子供でも飲みやすいから、ルイスがいるときはこれを飲むことにしています」


(それに、カフェインレスなので小さな子供も安心です、とイザベルは心の中で付け加える)


「へえ。初めて飲むわ」


 ジェシカはまじまじとカップに注がれたルイボスティーを眺め、一口飲む。


「美味しい」

「お口に合ってよかったわ」


 人によってはあまり好きではないこともあるので、よい反応が得られたことにホッとする。


「楽しそうね。あの子が同年代の子と遊ぶ姿を見るのは初めてかもしれないわ」


 ジェシカは椅子に座ったまま子供達を眺め、目を細める。


「レオンはいつも、どんな遊びを?」

「それが、剣を振り回してばかりなの。父親の影響か、立派な騎士団長になるんだって」


 ジェシカは苦笑する。


「騎士団長……。あっ! ああー!」


 重要な事実に気付き、イザベルは大きな声を上げるとその場で立ち上がる。


(レオン・マルチネス! 思い出したわ。天才騎士団長よ!)


 なぜ今まで気付かなかったのだろう。

 レオン・マルチネスはグラファンの攻略対象者のひとり──天才騎士団長の名前だ。

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ルイボスティー 美味しいですよね
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