最終話 美少女JKモデル、ガチで再会する②
ウチはスマホにメッセージを打ちながら、彼にズンズン近づいてく。
最初は陽射しの眩しさに気を取られてた彼も、ウチが自分めがけて突進してくることに気づいて後退りした。
ウチはビックリしてる男子生徒に問答無用でスマホを突きつける。
『こっち来て』
「え……? え……?」
困惑する――しかし若干嬉しそうな――彼を手招きし、校舎の影になる場所へ誘導する。
体育倉庫に近く、しかし逃げ道から死角になる場所だ。
「な、なにか用ですか……?」
キョドりながらも軽く期待げな彼に、ウチは改行した次の文章を示した。
『↓これ読んで。先生呼んでる風に。大声で』
「え……? これ、読めばいいんですか? この下の文?」
ウチは頷く。
「よくわかんないけど……わかりました」
不思議そうにしつつも素直に受け取った彼は、大きく息を吸って叫んだ。
「せんせー! 体育倉庫にあるんですよねー! いくつ持ってけばいいですかー? あ、わかりましたー!……これでいいっすか?」
最後のセリフはウチに対するヒソヒソ声だった。
ふむ、なかなか自然な演技力だった。
芋だったらバレるかもしれなかったからな。
褒めてつかわす。
『褒めてつかわす』
「あ、あざっす……」
『もう帰ってよい』
「あ、うす……」
最後まで困惑したまま頭を下げる彼が立ち去るのを見届け、死角から首を少し出す。
すると、まるで殺虫剤かけられたみたいに、体育倉庫の影からゆあたちが逃げてくのが見えた。
ふふふ、まんまと効いた。
楽勝だ。
こちとら、伊達にカースト最下位経験してきてねぇんだわ。
ウチは、フンフンと鼻歌を歌いながら――音出ないけど――不良のいなくなった巣を再び覗く。
そこでは、ドラムが地面に散らばった教科書を拾ってるとこだった。
ウチが来たことには気付いてないようだ。
別にわざわざ注意を引くこともない。
ウチも足元に落ちてたノートを拾ってると、
「ひぇ⁉︎」
向かい側で小さい悲鳴が上がった。
目を上げると、ドラムがウチを凝視したまま身を仰け反らせてた。
まるで窒息したみたいにどんどん青ざめてく彼女を前に、ウチは思わず「警戒するアライグマってこんな感じだったなぁ」なんてノンキな感想を抱く。
野生の警戒を解くため、ウチはスマホを打って見せつける。
『大丈夫、なんもしないから』
さらに付け足す。
『ごめんね、ウチの知り合いが』
そのメッセージを見て、ようやく彼女はアライグマから人間に戻った。
「あの……えっと……」
彼女は視線を忙しなくウチの前や後ろなどに動かしてから、やがてウチの手元に注目する。
「あの、ありがとうございます……ノート……」
ウチは眉を上げて、拾った物を持ち主の手に返す。
『別に、こんくらい当たり前っしょ』
「いえ、嬉しいです……山崎さん、雰囲気変わりましたね……あっ」
キレられるとでも思ったんだろう。
彼女の顔から血の気がサッと引いた。
その反応だけで、今までのウチがどんだけ偉そうだったのか、よくわかる。
『色々あったからね』
ウチが短く答えると、彼女は納得したように頷いた。
多分、交通事故のことと勘違いしてるんだと思う。
でも、そんなもんじゃない。
本当に『色々』あったんだ。
多分それは、一生誰にも共有できないんだろうけど……
ウチは、声もなくため息をつく。
やっぱり、思い出すとどうしても会いたくなってきてしまう……
ウチは、気を紛らわせるためにスマホに『ドラムは』と打って、指を止めた。
ドラムなんて最悪なあだ名、使いたくない。
文字にしただけで、自分がブスに染まってくみたいだ。
打ち込んだ四文字を消して、新しい文章を書いて見せる。
『ウチ、アンタの名前知らないや。なんて名前なの?』
散らばった教科書を腕に収めた彼女は、ウチのスマホを覗いて意外そうな顔を見せた。
そして、おずおずと答えた。
「あ、あの……イコマです」
……その三文字を聞いたとき、ウチは一体、どんな顔をしてたんだろう。
目の前の『イコマ』さんが、
「あの、顎大丈夫ですか、顎……!」
と言ったので、相当すごかったんだと思う。
焦ってスマホを打つ。
『いこま⁉︎』
「は、はい……」
『漢字は⁉︎』
「い、生きるの生に、将棋の駒の駒ですけど……」
同じだ……
心臓が肋骨を叩きまくって、そのまま突き破って出てきてしまいそうだった。
まさか。まさかまさかまさか……!
震えてうまく動かない指を押さえつけて、ウチは、一番聞きたくて一番聞くのが怖い質問を彼女の前に突き出した。
『下の名前は』
「えっと、その……さな、です」
「さな……」
ウチは彼女の返事に驚いて、さらに自分の声が聞こえたことに混乱した。
今……声が出た……⁉︎
生駒さなと名乗った少女も、驚いたように眉を上げる。
でも、ウチの声なんて今はマジでどうでもいい!
「さ……さ、さなってこの漢字⁉︎ ねぇ、これ⁉︎」
ウチが掠れた声を張って、スマホに書いた『紗凪』という名前を書きつける。
すると、生駒さんは再び息を呑んだ。
「あ、そうです! すごい、どうしてわかったんですか? あんまり普通の字じゃないのに」
「紗凪……紗凪!」
ウチは、思わず彼女に抱きついてた。
「ひぇっ⁉︎ なになになにっ⁉︎ え、どうし……なんで⁉︎」
狼狽える彼女の声が頭の上から降ってくる。
それで、ウチはますます確信した。
顔はもちろん違う。
体つきだって全然違う。
抱きついたときの感触なんか、真反対だ。
それでも、彼女は『生駒紗凪』だった。
――その存在は、互いの世界からは観測できないっスけど、どこかで繋がってもいるんス。
いつかどこかでよしひとが言ってたことが、不意に頭に浮かんできた。
そう、繋がってるんだ。
ウチらは、たしかに同じ場所に生きてる。
離れてても、見えなくても、ウチらはずっと繋がってる。
「……ねぇ、友達になろうよ」
ウチが紗凪の胸から顔を上げて言うと、彼女は目をパチクリさせた。
「え、へ、え……? あ、友達料払う感じのですかね……い、いくらですか……」
「はは、前にそんなこと言ったヤツがいたなぁ」
ウチは笑って、紗凪の大きな体から離れた。
彼女は半分恐々、半分不思議そうにウチを見てる。
「さて、鞄はあるから、サボる準備はできてんね」
「え……? さ、サボる……?」
「ウチ腹減ってんのよ。マック行こ、マック」
「え、でも……授業がまだ……」
「アンタ、真面目だから平気っしょ。ウチらの最初はマックって決まってんの」
ウチが先頭切って歩き出すと、彼女は迷った挙句に、おずおずとついてきてくれる。
まだこっちの世界の紗凪は、ウチに笑顔を見せてはくれてない。
なにを言われるか不安で、なにをされるか心配で、怯えてる。
けど、大丈夫。
まっすぐ、心で向き合えば、絶対に通じるから。
ウチは振り返いて、紗凪に言った。
「んでさ。マックついたらウチの話聞いてよ」
「あ、はい……えと、念のため、どんな話ですか……?」
「うーん……学校1のブスが『ウチは美少女だ!』ってミスコンで暴れ散らかす話?」
「え……ふふ。なんですか、それ」
紗凪はようやく、小さく笑ってくれた。
ここから、ウチらの毎日はまた始まったんだ。
― END —
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【完結までお読みくださり、ありがとうございました】
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