表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/76

第57話 美少女JKモデル、敵を知る①


 ……それから、どれくらい経っただろう。


 次の鐘が鳴ったのかさえ定かじゃない。


 横たわってると、前に節子から言われたことが、身に染みてわかってきた。

 ウチは、自分が買ってる恨みの大きさが見えてなかったらしい。


 頭の血が抜けたからか、この世界のルールが、今になってハッキリと見えてくる。


 今までずっと意味不明だと思ってたけど、どうやらこの世界は、前の世界からなにひとつ変わってなかったみたいだ。

 単にウチの立場が変わって、見下ろすほうから見上げるほうに景色が変わっただけ。



 美人か、ブスか。


 そんなクジみたいなもんで、世の中からの扱われかたは天から地に変わる。



 もし神様がいるんなら、そいつは怖いくらい単純で乱暴なバカなんだろうな……あ、そういや女神様はウチの見た目してたっけ。じゃあバカだわ。

 そんなことを思いながら寝てると、



 ガラ――ッ。


 

 と扉の開く音が聞こえた。


 ウチは目を閉じつつ、大騒ぎになることを覚悟した。

 なんてったって、なんにもない空き教室に、顔を腫らした生徒がひとり倒れてるんだ。

 異常事態なのは誰にでもわかるだろう。


 でも、代わりに落ちてきたのは、呆れたようなため息だった。



「派手にやられたわね。ボロ雑巾みたい」



 思わず頭を床から持ち上げる。


 そこにいたのは、千代田節子だった。

 ドアを閉めて近寄ってくる。


 ウチの前まで来ると、上品にしゃがんでくる。

 ウチの視界は、彼女のデカい腹で満たされる。



「大丈夫?」



 切れた口元に、白いレースのハンカチが当てられた。


 ウチは鼻で笑ってしまった。

 さすがのりりあちゃんでも、こんなに性悪な人間には会ったことがない。



「……んだよ、自分で差し向けたくせに、いい人ぶりやがって。サイコパスか?」


「口はきけるみたいね」



 節子は気にしていないかのように言う。



「お前のせいで、あちこち痛ぇけどな。満足? ムカついてたブスをボコボコにできて」


「悪かったわね、止められなくて。病院行くなら、少しは負担するわよ」



 ウチは、目の前の膝小僧に信じられないという目を向けた。


 コイツは……どこまでケンカ売ったら気が済むんだ?

 人を舐めんのもいい加減にしろよ……



「いらねぇよ! なんなんだよ! 普通にバカにしてこいよ! 遠回しなことばっか言いやがって……紗凪不登校にしたのだって、脅迫の手紙入れてきたのだって、全部お前がやったんだろうが!」


「違うわよ」



 彼女は即答する。

 まるでウチの恨みを断ち切るように。



「貴女、まだ勘違いしてるのね。私は、あの子たちのボスじゃない。あの子たちがなにをしてるのか知らないし、止める力なんて、持っちゃいない」


「は……はぁ? 嘘つくなよ! お前がリーダーだろ! いつも真ん中にいるし、偉そうだし、あのなかで一番美人だし」


「私を美人だって認めたのは褒めてあげるけど」



 彼女は、ウチから今の言葉が出たのが信じられないというように、細い目をパチクリさせてから言った。



「容姿が良ければ中心になれると思ってるなら、それは世間知らずってものよ。小学生……いや、猿山の知識ね」



 また猿扱いしやがって……



「……じゃあどんな関係なんだよ」


「利害関係かしら」



 彼女はウチの血がついたハンカチをポケットに戻すと、小さなため息をついた。

 それは、ウチに失望したというより、疲れたサラリーマンみたいな弱々しさだった。



「少し怖いのと一緒にいると、周りから嫉妬されなくなるのよ。だから、そういうのとも仲良くするようにしてるんだけど……思ったより気に入られちゃってね。生駒さんへの暴力なんか見てられなかったから、バレないように中断させてたけど、変に止めると矛先こっちに向くし。めんどくさいことになったわ」



 濡れたようにさえ見える髪をクルクルと指で弄ぶ。

 ウチの頭には、耳鳴りが響いてた。



「じゃあなに……アンタはなにもしてないの……」


「そうね。だって、する理由がないもの。しなくても勝てるのに、わざわざ手を出す必要ないでしょ?」



 溢れる自信。

 誇り。

 そこには努力で裏付けされた信念が見え隠れしてた。



 嘘じゃないんだ……



「なんだよそれ……じゃあ、マジでウチだけ悪者じゃん……」


「悪者……?」



 節子は不思議そうに聞き返す。

 でも、返す余裕もない。


 敵だと嫌ってた奴は、紗凪への暴力を止めてさえいたんだ。

 思い返せば、紗凪は会ったときから、節子はいい人かもしれないと口にしてた。


 それは、胸が苦しくなるほど辛い事実だった。


 なら、紗凪の敵は、最初からウチだけだったんだ……



「とりあえず、元気ならもう行くけど。ひとりで歩ける?」


「は……平気だし……」



 ウチは立ちあがろうとするも、尻餅をついてしまった。

 強がりたくても、体中から気力が抜けてしまってる。


 それでも、節子の手は借りまいと再び踏ん張ってると、その気を挫くようにウチのスマホが鳴った。

 震える手で取ろうとするも、腕が思うように曲がらない。

 見かねたのか、節子が代わりにウチのポケットからスマホを取り去り、スピーカーモードにしてウチの前にぶら下げた。



「誰……」


 呻くように尋ねる。


 ――りりあさん‼︎‼︎



 思わず通話口から顔を離す。

 よしひとが大音量で叫んでた。



 ――今どこいるんスか‼︎‼︎ 大発見っス‼︎‼︎




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ