表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/76

第53話 美少女JKモデル、知る③


 紗凪の声はずっと感情が読めなかった。

 怖いくらいに無機質で、一定だ。


「悪口を言われすぎるとね、人の目が怖くなるの。外に出るのが怖くなるの。子供の頃に想像してた普通の人には、自分は絶対なれないんだって知って、死にたくなるの。社会の全部を恨みたくなるの。それで、そんな汚れて陰気な自分が、一番嫌いになるの……」



 頭のなかで、暗い部屋でパソコンの光を浴びる紗凪の絵が浮かぶ。



「顔を見せるだけで人に嫌われる。生きてるだけで人を不快にさせる。それが辛くて泣いても、それも気持ち悪いって言われるから、わたしたちは泣くことさえ許されない……」


「そんなの、考えすぎでしょ。泣いたらいいじゃん。誰もアンタに泣くななんて言う資格ない」


「それは、りりあちゃんがわたしを美人だと思ってるから、言えるだけじゃないかな……」


「えっ? なに、どゆこと?」


「たとえば、今のわたしがりりあちゃんが元いた世界のブスだったら……どう思う?」



 紗凪の問いかけは――残酷なほど効果的だった。


 止める間もなく、ウチの脳みそは、勝手に想像を始めてしまう。


 今、目の前にあるドアの向こうにいるのが、紗凪ではなく、ドラムだったら……?

 ドラムが、自分がブスなことを悲しんで、部屋でひとり泣いてるのだとしたら……?



 ――なに泣いてんの? ブスに生まれたお前が悪いんでしょ。


 ――ブスが泣いてもキモいだけだから、早く泣き止んでくんね?


 ――つかさっさと死ねよ。マジ不快。



 頭に浮かんだ、いや、実際に言ってきた言葉は、絶対に紗凪の前では言えないことばかりだった。

 毒々しい色をした悪口たちは、ウチの胸のなかで渦巻いて、真っ黒な快楽を思い出させる。


 ウチは今まで、なにを言ってきたんだ……?



「……正直だよね、りりあちゃんは。嘘がつけない」


「ッ! ち、ちが――ッ」


「なら、もし私がとっても太ってて、とってもブスでも、イジメから助けてくれた? 一緒にハンバーガー食べてくれた? 一緒に渋谷まで洋服買いに行ってくれた? こうやって家まで来てくれた?」


「……」


「恥ずかしいと思ったんじゃないかな、きっと」


「そんなこと……」


 ない?

 否定し切る自信は、今のウチにはない。


 ウチは、相手が紗凪だったから、そうしたんだ。


 ドラムだったら……イジメられてても間違いなく助けなかった。

 なんなら、ざまぁとさえ思っただろう。


 でも、その立場が、今の紗凪なのだ。


 ウチの脳が混乱する。

 今話してるのがドラムか紗凪か、わからなくなってきた。


 紗凪の卑屈な笑い声が廊下に響いた。



「りりあちゃんはわかってないんだよ、ブスでいるホントの怖さも、苦しさも。でも、そんなのは知らないほうがいい。早く戻れるといいね、元の場所に。ミスコンも応援してるよ。見には行けないけど」


「……アンタ、ミスコンまで休むつもり?」


「ううん、ずっとかな。学校は辞めるから」


「んな――っ」



 ウチは思わず固まってしまった。



「紗凪、アンタ気にしすぎだよ! 中退なんてしなくていい。所詮ブスの言うことなんて――」


「聞く必要ない? ブスの言うことは無視していい? ブスだからバカにしていい?……全部、わたしが今まで言われてきたことだよ、りりあちゃん」



 紗凪の小さな声は、ウチの浅い言葉を切り裂いてく。



「酷いこと言ってごめんね……でも、これからはもうりりあちゃんとも会えなくなるから、許して。わたしのこと友達って言ってくれて、嬉しかったよ……ホントに……ホントに嬉しかった……」


「待てって。中退してどうすんのよ。中卒になんの? 結局、そのまま働くんだから、結局周りにバカにされんのは変わんないよ?」


「……やっぱり、中退じゃ意味ないのかな」


「そ、そうだよ! 高校だけじゃない! どこ行ってもウチらはそういう目で見られんだよ! なのに、こんなんでいちいち病んでたら、これからの人生生きてけねぇって!︎」


「そうだね……なら、やっぱり死んだほうがいい……」




 カチカチカチカチ――




 今までで一番連続した音が、ドアから漏れてくる。

 ようやく、ウチは謎の音に違和感を覚えた。



 これ、パソコンの音じゃなくね……



 頭のなかで硬い謎の音。

 それが不意に『死』という漢字と繋がって……紗凪の『腕』へと飛んでいく。



 その瞬間、ウチは氷水をいきなり浴びたみたいに息ができなくなった。



 ウチの……バカ……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ