12
赤毛の少女が、緑色の目を血眼にして翠緑庭園の茂みを探し回っていた。
「ぐぬぅー! 猫どこいったー!」
レザリアはそれを遠目に眺める。
(まだ探してる……)
レザリアはレザリアで、水の人の声が聞こえないかと水回りを探っては下ばかり見て歩いていた。
「ちょっとそこのあんた!」
「ひゃい!」
背後からのとがめるような声に飛び上がりそうになる。
不意打ちを食らわせた正体は、赤毛の少女だった。
レザリアと同じくらいか、それよりも少し幼い年に見える。
彼女は両手を腰に置き、ふんぞり返りそうな姿勢でレザリアに言う。
「かわいい子猫見てない? 片方がモモ色で、片方がハチミツ色のかわいいやつ」
「……み、見てません」
「何よその態度」
「ぼくは子猫とは無関係……です」
「うそだわ絶対見たでしょ」
「ほんとに見てません!」
「じゃあ、あんたここで何してんのよ」
えっと……えっと――
「――お花を見てた」
「お花? お花好きなの?」
「う、うん」
「ふーん。確かにあんた、髪飾りもお花だもんね」
「あなたは……どうして子猫をさがしてるの?」
「リリィ? リリィはあの子を使い魔にするのよ」
「リリィって……あなたのこと?」
「当たり前じゃない」
この子自分のことリリィっていうんだ。
見た目通り子どもっぽいなぁ。
「使い魔って、なに?」
「あんた、使い魔も知らないの? さては学校サボってるのね?」
「あ……はは、学校は、苦手というか……行きたくてもいけないというか……」
あなたもサボりだったのでは?
レザリアは疑問を口に出さなかった。
「……そうなんだ。あんた名前は?」
「ぼく? ぼくはレザリア」
「いい名前じゃない」
あれ、この子って意外とやさしい?
「名前負けしてるけど」
「……やさしくない」
「何よ失礼ね。せっかくほめたのに」
「ほめた後にそんなこと言われたら誰だってガックシだよぉ」
「本当のことを言っただけじゃない」
「ぼく、あなたのこと心配になってきた」
「使い魔も知らない子に言われたくないわ」
「……で、その使い魔って何なの?」
レザリアは気を取り直して尋ねることにした。
「いいわ、教えてあげる。リリィ様って呼べばね」
「はい……リリィさま」
「ふふん、人に教えを乞う態度は分かっているようね。
使い魔って言うのはね、魔法使いが使役する獣のことよ」
「しえき……」
「主人の命令には絶対服従して、命をかけて主人のために働くのよ」
「ほぇ……大変だね」
「大変なことをする価値はあるわ。主人から魔力をもらえるから、普通の獣よりも強くなれるもの。いじめられたりしなくなるわ」
「リリィ様は、使い魔になんの仕事をしてもらいたいの?」
「一緒にいてもらうわ」
「……他には?」
「ないわよ。他なんて」
「えっ?」
「一生そばにいてくれればそれで十分じゃない。何よその顔は」
ぼく、どんな顔してるのかな。
「あはは……ごめんなさい」
「謝るんじゃなくて、どういう顔なのよ」
「えっと……ほっとした、のかな」
「なんでほっとするのよ」
「だって、使い魔を死ぬまでこき使う気なのかな……なんて思ってたから」
「そんなことするわけないじゃない」
「だって、リリィ様が命をかけてって言うから」
「一生ってことは命をかけるってことでしょ?」
「……なるほどぅ」
レザリアはすっかり緊張の糸が解けた。
「けど、リリィさまはどうしてその子猫を使い魔にしたいの?」
「仲間外れだからに決まってるじゃない」
「決まってるんだ……」
「仲間外れなら、リリィのことだけ好きになるでしょ」
当然のようにそんな言葉を放つリリィに、レザリアは言葉を失う。
「今度はどういう顔よ」
「かなしい顔」
「なんでかなしいのよ」
「自分とその子猫が似てるから」
「……やっぱり、あんたも仲間外れなの?」
「そうかもしれない」
「なによ。はっきりしないわね」
ぼくなんて、ゼトさんがいなかったら今頃どうなっているのだろう。
死んでたのかな。それとも、結局怖くなってまた死ななかったのかな。
どっちにしても、嫌だな。
「じゃあ、リリィがあんたを使い魔にしてあげる」
「……人も使い魔になれるの?」
「滅多にないわそんなこと。でも、なれるらしいわ」
「どうやってなるの?」
「決まってるじゃない。あんたに血を飲ませるの」
「ち……血ぃ!?」
レザリアは思わず後ずさりした。
「……嫌ならいいわよ。リリィはあの子猫を探すから」
「そんなこと言わないで? ぼくが……あっ」
「どうしたの」
「シルゥカとスアレだ……」
レザリアが友達になろうと言いかけたその時、向こうの方から歩いて来る二人の姿があった。
「誰よ、その女たち」
「ぼくの……隣のクラスの……友達……」
隣のクラスというのは妄想だった。
「なんだ、友達いたのね」
「えっと……なんていうか」
歯切れの悪いやり取りをしていると、目ざといシルゥカがこちらに気づいて近づいてきた。
「おっ、リリィじゃん! おーい!」
「ちょっと待って! シルゥカ!」
シルゥカの後をスアレが追ってくる。
レザリアとリリィはただ呆然とその二人を眺めていた。
「誰よ、あんたたち」
「はぁー? うちらのこと忘れたのか……うちはシルゥカ。こっちはスアレ」
「待ってってば……」肩で息をするスアレ。
「知らないわよ。あんたたちはレザリアの友達なんでしょ」レザリアを指さす。
「え……誰……?」目を丸くするシルゥカ。
「あはは――」
――どうしよう。
「うちら隣のクラスじゃん? 覚えてないの?」
「隣のクラスなんて別世界じゃない。それよりも、レザリアと友達なんでしょ」
「え……いや、レザリア……聞いたことがあるような気がしないでもないけど、うちらって友達……なんだっけ?」
「あはは……ぼくが勝手に友達だと思ってた……感じだったりして……?」
「はぁ?」リリィが眉をひそめる。
「わっ、リリィさま! ごめんね!?」
「えっ、リリィ《さま》?」シルゥカはレザリアとリリィを交互に見る。
「レザリアに言ったんじゃないわよ。シルゥカに言ったの。それってどういう意味? レザリアはあんたの隣のクラスで、シルゥカとスアレのことを知ってたけど? それなのに、リリィに『隣のクラスなのに覚えてないの?』っていうわけ?」
「おっと……まじかぁ……スゥ?」助け船を求めるシルゥカ。
「はぁ……はぁ……ごめんなさい」息を整えながら首を振るスアレ。
「あわゎ……」レザリアは情けなく鳴く。
ゼトさん……どうしよう……!?
レザリアがこの場にいないゼトにすがろうとしている間に、リリィは両手に握りこぶしを作っていた。
「ふざけないでよッ!! リリィはそういうの大っ嫌いなんだからッ!!」
爆発のような声が翠緑庭園を満たした。
レザリアは吹き飛ばされる気さえした。
どうやらシルゥカもそうらしい。
「リ、リリィさま。違うの……ぼくが間違ってただけで……シルゥカとスアレは本当に悪くないんだよ?」
「じゃあ、レザリアは二人とは友達じゃないの」
「ともだち……だよ――」
ぼくは、二人のことを友達だと思ってる。
けど、二人にとってのぼくはただの他人。
どう説明すればいいんだろう。
とにかく、何か言わないと。
「――あ……あっ……あぐ……」
あれ、声が出ない。
「あっ……あぁ……うっ……」
違うの。二人はいつも優しい二人で――
「うっ……あ……」
――初めて会うぼくにも優しい二人なんだ。
不意に腕を掴まれて、レザリアはびくりとした。
「どうしたのよ、喋れないの?」
「あぅ……あ……」
「仕方がないわね。代わりにリリィが言う。シルゥカとスアレだっけ? あんたたち、ふざけんじゃないわよ。リリィでも分かる。この子はあんたたちのことを友達だと思ってる。けど、あんたたちは嫌うどころか知らないふりをしてるじゃない」
「ち、違うよ! うちら本当に……」
「隣のクラスの全然学校にも行ってないリリィのことは覚えてるくせに? リリィはあんたたちの事なんて全然知らない。けど、この子は知ってる。この際、あんたたちがこの子のことを本当に覚えていないかとか、そんなことどうでもいい。あんたたちはリリィなんかに声をかけてる場合じゃなかったってことよ」
「……」シルゥカの瞳が揺れていた。
違うよ……シルゥカは悪くない。
「友達を忘れてんじゃないわよッ!!」
リリィが怒鳴り、シルゥカは数歩下がった。
「ごめんなさ……うち、ほんとに覚えてなくて……ごめんなさ……」
「ルゥ……行きましょう。レザリアさん、ごめんなさい」
涙を流すシルゥカと、彼女を支えるスアレ。
二人の背中が遠のいていく。
「まったく、何なのよ」
リリィは鼻息を鳴らして文句を言っていた。
「ちょっとあんた、急にどうしたの。声が出ない呪いにでもかかったの?」
「ひっ……あっ……」
「ん?」
「ひ……どい……ひどいよぉッ!!」
「あら、声出るじゃない。ほんと、ひどい奴らよね」
「違う!! あなたに言ってるの!」
「は? どういう意味?」
「シルゥカもスアレも、いい子たちなのにッ!」
「なによ。あいつら、いい奴らなの?」
「そうだよ!」
「じゃあ、なんでリリィが話している時に止めなかったの」
「それは……」
「何よ。自分で分からないの?」
「……」
「あんたのことを無視したのが許せなかったんでしょ」
ぼくが……二人にそんなこと……あるわけない。
「違うの?」
リリィに言い返すことができなかった。
どうして。声が出てこないの。
「あんた、泣いてるじゃない」
自分よりも背の低いリリィに頭を撫でられ、その場にうずくまるレザリア。
「リリィはあんたを無視したりなんてしないわ」
リリィに慰められながら、レザリアは別の人のことを考えていた。
そうすると安心できたし、どんなに苦しくても立ち上がれると知っていたからだ。
顔を上げ、リリィの顔を見る。
不器用だが、それでも心配してくれているのが分かった。
そうして、もう一度うつむく。
頭を撫でられる感触が、もう少しの間続いた。
レザリアとリリィは、エメラルドガーデンからすぐ西側にある橄欖石通りを歩いていた。なんでも、リリィが自分の家に招待してくれるというのである。
沈んだ気持ちではいたが、リリィの気持ちが嬉しいレザリアだった。
「ここがリリィの家よ」
「ふゎぁ……」
「すごいでしょ」
「すごい――」
――ぼろい。
家の塗装は剥がれ、石が剥き出しだ。
あちこちの隙間からニョキニョキと元気のよい植物たちが細長い手足を伸ばしている。
人の家じゃなくて、むしろ虫の家に見えた。
「ここって……人が住んでたんだ」
「当たり前じゃない」
「お化けとか出ないの……?」
「なにそれ、すごくいいわね。お化けが出たらリリィの使い魔にしてあげないと」
「えぇ……」
リリィさまは怖いもの知らずのようだ。
心臓が石で出来ているらしい。
リリィが家の扉を開けると、気持ちの悪い音がキィーッ……と鳴った。
薄暗い室内が垣間見え、生活感のなさがうかがえる。
これなら、橋で暮らす方がいいかもしれない――レザリアは入るのをためらっていた。
「リリィさま、ぼく……おなか痛くなってきたかも」
「大変じゃない。早く入りなさいよ。お薬を用意してあげるわ」
ぼくってほんとばか。
しかし、とぼとぼとリリィの後に続くしかなかった。
リビング……おそらくリビング。
うねる木でできたテーブルと切り株でできた椅子がある。
おそるおそる座ると、「あぁ……」と声が漏れてしまった。
「座り心地いいでしょ」
「とっても――」
――じめじめする。
「そうでしょう? 地面から生えてるのよ」
「そう……なんだ」
レザリアは試しに切り株を動かそうとして見たが、確かに根を張っているようでカチコチだった。
「本当はもっと大きな木を生やしたいんだけど、この街ってあまり大きな木を育てられないのよね」
「生やすって、いちから育てるの?」
「決まってるじゃない。リリィが魔法で種から育てるの。あんたが座ってるのもリリィが育てたのよ」
「育てた――」
――というか、切ったというか。
この場合、育てて切ったかな。
「あんたはどんな魔法が使えるの」
「ぼくは……ぜんぜん魔法とか知らなくて」
「ふーん。学校サボってるものね」
「はは……リリィ様こそ、学校に行ってないけど魔法を使えるの?」
「決まってるじゃない。リリィは天才だもの。まあ別に、天才じゃなくても勝手にひとつやふたつは覚えるわ」
「そういうものなんだ……ぼくも魔法、使えるようになりたいな」
リリィが台所らしき場所から紫色の湯気が出ているカップを持ってくる。
なんだろう。考えたくないな。
「魔法くらい教えてあげるわよ」
「ほんと……?」
「なんで嘘をつく必要があるのよ。そんなことより、飲みなさいよ」
「なにこれ」
「お薬よ。決まってるじゃない」
「リリィさま、ありがとう。でも、お腹痛いの治っちゃったみたい」
「よかったじゃない。でも、そういうのは治りかけが肝心なのよ。いいから飲んで」
「何よその顔」
「胸がくるしいって顔」
「あら、そんなに感動してくれるとは思わなかったわ」
仕方がない。飲む。飲むぞ。よし、飲もう。
飲むったら飲むんだから。飲むよ。
ゼトさん助けて。
とっさに指輪に願うも、それらしき反応はなかった。
……ひょっとしたら、見た目に反してとってもおいしい――そんなことがあったりしてほしい。
「早く飲みなさいよ」
「はぃ」
あきらめたレザリアは、紫色の液体を一気に飲み干した。
じんわりと熱いものが喉元を通り過ぎていく。
途中、吐きそうになりながらも、ぐっとこらえて無理やり流し込む。
「リリィさま……このお薬、まずい」
「お薬だもの。決まってるじゃない」
リリィが黙って水の入ったコップを差し出し、レザリアは急いでそれを飲み干すのだった。
「――じゃあ、リリィが魔法を教えてあげる」
「はい先生。空を飛んでみたいです」
「あんたには無理よ」
「……リリィさまはできるの」
「できるわよ。決まってるじゃない。天才だもの」
「なんでできるの?」
「飛べると思うからよ」
「……?」
「飛べるっていう確信があるから飛べるのよ。鳥がいちいち『今日は飛べないかも』なんて思わないでしょ」
「気持ちの問題ってこと……?」
そんなのなんでもありだ……。
「まあ、気持ちだけではないわよ。見えない力の流れを感じ取れないと」
「見えない力……?」
「さあ? 学校では『魔力』って教えてるんじゃないかしら。リリィはそれが何なのかは知らないけど」
「知らないってどういうこと?」
「そのままの意味よ。誰かが勝手に名前をつけただけで、それが本当の名前なのかリリィは知らないもの。『魔法』って言葉は好きだから使ってるの」
「ふんふん」
「とにかく、空気みたいに見えない不思議な力が、空気みたいにそこら中にあるのよ」
「……ほぇ」
「何よその顔」
「ぜんぜん分からないっていう顔です」
リリィは「仕方ないわね」と言って、再び推定台所に向かった。
しばらく物音を立てた後、水が半分ほど入った透明なガラスの箱と小さな袋を持ってきた。
「この水が空気よ」
リリィはそう言ってから、小さな袋の中身を水に振りまく。
「この紫色が見えない力――魔力よ。空気と混ざりあってるみたいでしょ? 仲良しなのね」
水はあっという間に紫色に染まっていった。
すっかり紫色になった水をリリィは指でかき混ぜた。
「こんな風に混ぜると、魔力と空気が一緒に動くわ」
勢いよく渦を巻いている。
リリィは天然の木製テーブルにぴょこんと生えていた葉っぱを引っこ抜く。
「で、この葉っぱが人間。空気と混ざっている魔力と違って、緑色の魔力をまとっているわ。これを水に落とすとどうなるかしら?」
「ぐるぐる回る」
リリィは葉っぱを渦に落とした。
葉っぱは水に流され、レザリアの言った通りにぐるぐる回っている。
「この人間は魔力の流れに上手く乗れているみたいね。まあ、流されているとも言えるけど」
「これが飛ぶってことかぁ!」
「そうよ。人が持っている魔力と空気に存在している魔力が完全に混ざることはないから、居場所を取り合うみたいにぶつかり合うわ。そしたら浮くの、多分ね」
「多分……でも、さっきより分かったよ! 分かればぼくも飛べるんじゃないかなぁ?」
レザリアが嬉しそうにするが、リリィは首を縦には振らなかった。
「無理だと思うわ」
「むぅ、なんでですか」
「あなたの魔力って見えないどころか、物凄く感じ取りにくいんだもの。それって、色がないのと同じってことよ」
「え、魔力がないとか、才能がないってこと……? そんなぁ……!」
テーブルに頭を落とすレザリア。
勢いあまってごつりと音を立てた。
「あいててぇ……」
「ばかね。何やってるのよ」
「だって、魔法使えないんでしょぅ?」
「使えないなんて言ってないわよ。空は飛べないと思うけど」
「……リリィさま! じゃあ!」
「出来そうなのを教えるわよ――」
レザリアはリリィの個人指導をみっちりと受けることになる。
しかし、指導を受けていくにつれ、最初ほどの希望やわくわくを感じなくなっていた。
むしろ、少し落ち込んでいた。
「――レザリア、あんた……」
「はい」
「百発百中ね」
「……はい」
「天才かもね」
「…………はぃ」
「何よその顔は」
「嬉しいような、悲しいような、複雑な顔です」
「天才は誉め言葉だと思ってたわ」
「もっと違う才能がほしいです」
「あんた、さてはわがままね」
わがまま……。
もっと覚えたいけれど、黒マントの人達のことも考えないといけない。
自分にも魔法が使えることが分かったし、これからはゼトさんに教わる機会もあるはず。
「ううん。ありがとう、リリィさま。今日はそろそろ帰らないと」
「そう。残念ね。また来なさいよ」
「また来るね」
立ち上がろうとするレザリアに、リリィが引き留める。
「あんたはどこに住んでるの?」
「琥珀大橋の端の下」
「ふーん。変わったところに住んでるのね」
「あ……はは、そうだね」
「ねえ、あんたは家族と暮らしてるの?」
「えっと……家族はいないかな。リリィさまは?」
「パパとママがいるわ。もう長いこと会ってないけど」
「会ってないって、どれくらい?」
「5年くらいかしら」
「え……」
「放任主義なのよ。子育てをしない獣みたいなものね」
「あなたは人間だよ……?」
「そうね。でも、天才だからひとりにしても大丈夫らしいわ。実際、今のところ生きているわ」
「そんな……そんなのさびしいよ」
「そうね。そうかもしれない。だから使い魔が欲しくなったのね」
「そっか……」
「でも、もう必要ないかしら」
「そうなの……?」
「だって、レザリアがいるじゃない」
「ぼく……?」
「決まってるじゃない。使い魔が嫌なら別にいいわ。友達になるわよ」
「うん。嬉しい……ありがとう」
「決まりね。じゃあ、リリィは魔法を教えてあげたんだから、今度はあんたが教えてよ」
「なにを?」
「決まってるじゃない。友達になるための儀式よ」
「えっ……」
「やっぱり血が必要なの?」
「いらないよぉ!」
ほんと、心配な子だな。リリィさまは。
「もう暗いわね。足元に気をつけて帰りなさいよ」
「えへへ、ぼくは転んだことがないのです」
「そういう才能もあるのね。ともかく気をつけて」
「うん」
不気味な音を背に、リリィの家を後にする。
新しい友達と、新しく失う友達ができた。
うれしいけど、さびしいレザリアなのだった。




