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第一章⑻
誠の目に映る彼女の笑顔に、先ほどの幽々たる様子はなく、明るい表情に戻っていた。彼女に対する想いをこの時、初めて明瞭に感じた。俺は、この子を幸せにしたい。彼女が思い描く人生のストーリーがごく普通に送れるように、外側から見守るのではなく、支えてあげれたらどれだけ幸せだろうか。
ハンカチを受け取ると、彼女に失礼のないよう、真っ直ぐな気持ちで俺も返した。
「人は独りじゃ生きていけない。だから俺も人に優しくするように言われてきた。でも優しさや恩なんてものは、決してプラスやマイナスの話じゃないと思うんだ。与えたらプラス、受けたらマイナスだ、って果たしてそんなに理論的な話なのかな。だから、君が幸せになる権利なんてものは誰かに委ねられるものではなくて、自分が決めるものなんだ。幸せになることと、人に優しさを与えることは別だよ。君は幸せになるべきだ。でも・・・」
「君の人生は俺に委ねてくれないかな。葉山さんが好きだ」