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第一章⑺
どうやら彼女は幼いながらに父母を失くし、母方の祖父母に引き取られたらしい。貧しいながらも、祖父母の存在や近所の人の優しさにそこで何度も直面し、人は支え合いながら生きていくべきなんだ、ということを悟ったという。
「だから私、色々な人と触れ合い、あの時の優しさを返したいんです」
真っ直ぐな目だった。
「そして過去の経験を返し終えた時、初めて社会に認められて一人前の幸せを享受していい、と言われるような気がしてるんです。そしたら私は何もいらない。だから、みんなが思い描くような普通の生活がしたいんです。山あり谷ありなんていりません。谷を乗り換えると強くなるなんていうけど、無いに越したことはないんです。もしかしたら、サークルに入った動機は私のエゴを押し付けてるかもしれないけど、それでもお母さんが笑ってくれてたらいいなって」
彼女は笑っていた。