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盲目の霊能者  作者: 縄奥
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5話

 5話






 鬱蒼とした山の中を歩いて進む霊能者一行は少しずつ益山旅館へと近づいて行き、それを阻むかのように木々が邪魔する険しい山中を物ともせずに30人の霊能者達が一歩そしてまた一歩と近づいて行くと、大木に覆われた大きなコンクリート製の益山旅館の前に立った。3階建ての大きな旅館の窓ガラスは破れ暗い内部を伺わせたが、30人の霊能者達は怯むことなく一列に旅館を取り囲み口々に呪文を唱え始めた。すると突然旅館を覆っていた大木が左右に揺れ始め枯れ葉を振りまいた。


そしてそれでも呪文を唱える霊能者達は怯むことなく呪文を唱え鬱蒼とした山中は大きく大地を揺らした。そして俄かに霊能者達は益山旅館へ近づくといっそう大きな声で呪文を唱え、その中には当然の事ながら安部の名声も居た。安部の名声の声が霊能者達と声をそろえると旅館の窓ガラスが数枚、大きな音を立てて崩れ散った。すると今度は旅館の中から黒く多くの髪の毛が伸びて来て霊能者達に纏わり付いたが霊能者達は微塵も全身を揺らさずに呪文を唱えていた。


すると益山旅館の中から「苦しい… じゃが負けはせぬ!」と、ひと際大きな声が聞こえ黒い髪の毛は霊能者達を飲み込んで行った。それでも霊能者達は微塵も動かず両手を合掌させて空を見上げた。呪文が始まって半日が経過した頃には今度は突然の雷雨に見舞われたが霊能者達は動じることなく呪文を唱え続けた。すると旅館内部からは「く… 苦しい… くそ!」と、人間の声とも違う獣のような声が周辺に鳴り響いた。



 そして更に半日が過ぎて辺りが暗くなると益山旅館の中から「憎い! 人間が憎い! 私を踏みつけた人間が憎くて憎くて!」と、獣のような声と雷雨が重なってズブ濡れの霊能者達を容赦なく攻撃した。それでも霊能者達は呪文を何度も繰り返しては益山旅館の中に居るであろう悪霊に鋭く攻撃して、朝になって(もや)が掛かっても霊能者達は呪文を唱え悪霊の苦しむ声を物ともせずに呪文を唱え続けた。そして太陽が昇り始めると同時に霊能者達から徐々に黒い髪の毛が引き始めた。


そして太陽が天を鮮やかに染めた時、大量の黒い髪の毛の殆どが旅館のなかに取り込まれ「今だ!!」と、ばかりに30人の霊能者達は旅館の内部に突入し読経と呪文を続け黒い何かを取り囲んで「成仏させてやるから…」と、心の中で念じていた。すると黒い何かは黒い大量の髪の毛が消えて行きその素肌を露出させ「狼であったか……」と、霊能者達を安堵の表情へと替え、最後は30人の霊能者達は狼を取り囲んで一斉に読経と呪文を唱えるとね狼の身体が「スウー」っと宙に浮き始め天高く登って消えて行った。


その瞬間、霊能者達の顔には血の気が戻り「よしっ!」と、口々にズブ濡れの袈裟から水を絞り始めた。そして「成仏して欲しい…」と、霊能者達は口々に冷え切った唇を震えさせながら益山旅館の中から一人、また一人と出てきて袈裟を大きく広げて太陽の日をあたった。そして安部の名声ですら疲れ切った顔を安堵の表情に替えて、懐から出した握り飯を頬張った。そのことを知らない笑子も「成仏したのかな…」と、青空に顔を向けた。


やがて下山した30人の霊能者達は散り散りになって元居た街へと姿を消して、安部の名声もまたズブ濡れの袈裟を纏って近くのバス停から乗車して笑子のいる街へと向かったが心は晴れ晴れであった。

 



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