4話
4話
寺院から出て来た安部の名声に近づいて「お疲れ様でした…」と、呟くと笑子は無言で安部の名声の後を静かに追い安部の名声も「ありがとう…」と、後ろに居る笑子に声を掛けた。そして静かに杖を頼りに歩く安部の名声は「どうした? 坊ちゃんたち…」と、立ち止まって目に見えない何かに声を掛けて立ち止まった。どうやら天国に行けずに徘徊を続けて居る子供達のようだった。
安部の名声は「よしよしワシが天国に導いてやろう…」と、呟くと再び般若心経が唱えられ安部の名声の顔も緊張から穏やかな顔に変わって行った。その時間は30分にも及んだが何やら呪文を唱えると安部の名声は右手の平を縦に空を見上げた。そして「これで良いじゃろう…」と、瞼をチカチカさせて微笑んだ。
そして再び歩み始めた安部の名声は後ろから着いて来る笑子に「すまぬが茶を一杯いただけまいか…」と、立ち止まって少し首を回した。すると突然の言葉に笑子は「あっ! はい♪」と、喜んで安部の名声に近づくと目の見えない安倍は「笑子さんのことは心の目で見えているので着いて参りますよ…」と、頭を「コクリ」と、下げた。
笑子は喜んで安部の前に出ると後ろを気にしながら歩き始めた。30分後にして安部を自宅に招いた笑子は玄関を開けるなり「入って下さい先生!」と、引き戸を引いて玄関の中へと安倍を招き入れ慌ただしく自宅に入ると「先生! お茶で宜しいですか?」と、振り返ると玄関には安部が履いて居た草履が並べられていて、まるで見えているかのように上がり来んだ安倍は「お邪魔しますよ♪」と、ソファーの横に正座した。
そして「再びお邪魔させて頂きます」と、見えないはずのテーブルに頭を深々とざげ「お母さま…」と、呟いた。その光景に笑子は嬉し涙を流して安部に深々とお辞儀した。そしてお茶を出すと安倍は目に見えない母親と談笑を始めて何度も笑子の前で頷いては仏間に手の平を縦に振っては楽しげに笑みを浮かべ、そばで立ち尽くす笑子はその様子に安部に何度も頭を下げた。
「先生にはお母さんが見えて居るんだ♪」と、胸を熱くした笑子は茶菓子を安部の前に差し出した。すると安倍は「お気遣いありがとう♪」と、笑子に頭を下げて見えぬ母親と世間話に華を咲かせた。その光景は笑子にとって母親を感じる唯一の手段でもあった。そして二時間が経過した時に安倍は「お母さまは…」と、話している内容を笑子に伝えると仏間に再び合掌して「お陰て楽しい会話が出来ましたよ♪」と、笑子に深々とお辞儀して立ち上がった。
安倍が初めて笑子の家を訪ねた一日であった。それからが安倍と笑子の距離が縮まって行き「先生♪」と、後ろから声を掛けると「はい♪」と、答える安倍であった。そしてそれから数日後に30人の霊能者達と益山旅館の戦いが始まった。