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盲目の霊能者  作者: 縄奥
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2話

 2話





 笑子はいつもと違うソワソワしていた。と言うのも、この日は師匠と仰ぐ安部の名声との付き人として安部の名声の招かれた寺院での読経の稽古の日であって、勝手に安部の名声に付いて行こうと決めていた日だった。未だ師匠とも弟子ともなっていない笑子にとっては外せない一日でもあった。そんな笑子は「今日こそは師匠に弟子入りを果たしたい」と、言う思いがあった。


事前に安部の名声の後を付いて行くべきチェックも零れなく出発の時間を待って居た笑子でもあった。普段と何も違わない着物に白い足袋を履いた安部の名声は、落ち着いた様子で自室で呪文を唱えると心穏やかに出発の時を待って居た。その頃、安部の名声の自宅の玄関でソワソワする一人の女性である笑子が右往左往していた。


そして安部の名声が自宅の門から出て来た瞬間、笑子は「パッ」と、身構えて息を殺して身体を丸めると、安部の名声は「ダメですよ笑子さん♪ 連れては行けません♪」と、鼻をクンクンさせた安部の名声は、そんな時でも動じない強い心の持ち主でもあって無断で着いて行こうとする笑子を諭した。すると「バレたか♪」と、素直に出した笑子の声は何処か弾んでいた。


そして笑子を置いて手に持った杖を頼りにスタスタ歩く安部の名声を勝手に追い掛ける笑子がそこに居て、それは他者から見るとコントのようにも見えたようだった。ただ、違ったのは歩きながら右に左に立ち寄る安部の名声は屈んでは目に見えない何かと言葉を交わしつつ右手の平を縦に何かを祈っていた。そしてそれを立ち止まって見入る笑子は私立探偵のようにも見えていた。



 それから安部の名声は数時間掛けて修行僧のように歩いて寺院へと辿り着いた。これには笑子も「はぁ~ 疲れた…」と、本音を漏らした。そして安部の名声が寺院へ入ろうとした瞬間「師匠! お願いです! わ、私を弟子にして下さい!」と、笑子は安部の名声の片足にすがった。すると心穏やかな安部の名声の声が突然「キエェー!!」と、甲高くなって笑子は後ろに仰け反ってしまった。


安部の名声からの怒りにも似た甲高い声は天に轟いて尚も後ろに仰け反った笑子の脳天に突き刺さったようだった。笑子は全身を極端に緊張させ金縛りのように動けなかった。すると安部の名声は何事も無かったかのように寺院へと入って行った。ただその場に居た笑子は動けぬまま安部の名声を見送った。


そして半日が過ぎる頃には中から聞こえて来ていた呪文が消えて一瞬にして静まり返った。更に数時間後に中から出て来た安部の名声にもトイレに行っていた笑子は「まんま」と、逃げられてしまった。笑子は丸一日を棒に振り尚且つ大学も休んでしまい踏んだり蹴ったりの一日で終えた。そして帰宅した笑子の二階の部屋の窓の隙間から突然何かが風に乗って入り「志は一日にしてならず」と、書かれた手紙だった。


笑子は一日を棒に振った訳ではないと安倍の声明からの手紙に感謝して自らの行いの悪さを深く反省した。それから数日間は大人しくしていた笑子も痺れを切らして思えば足は安部の名声の自宅に向いていた。そして天を照らす月に両手を合わせた笑子は、安部の名声の自宅に一礼して帰宅した。



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