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第6話 自家発電

 そこは……普通に水洗式のトイレが鎮座していた。

 ただ、ここには水があった。

 使用していたかどうかはわからないが、水洗式のトイレを長期間使用しなかったときのリング状の汚れはなさそうだった。


 とりあえずの恐怖感からは解放されたわけだ。


 俺はそのまま廊下に出て、地下への入り口に向かった。


 懐中電灯で照らすとその階段は2回曲がる形でこのフロアの下へと繋がっていた。


 足元を照らしながらゆっくりと階段を降りると、そこはこの建物の敷地面積程に広い空間に出た。

 周りを照らすと、大型のボイラーや発電装置のような機械がしっかりと備え付けられていた。


 まずは一安心だが、この機械群は簡単に動かすことが出来るのだろうか?


 心もとない懐中電灯の明かりで周りを照らす。

 すると、その機械の横にパネルが設置してあり、大きな黒いボタンが目を引いた。

 近づいてみるとそのボタンの上に日本語で「起動スイッチ」と書かれている。


 逡巡してる心の余裕はなかった。


 そのボタンを押す。


 すると巨大な機械の駆動音が響き、続いてモーターが回転する音がした。


 パネルの明かりが次々と点灯して、この地下室にも光が灯った。


 どうやら正解だったらしい。


 俺はそのままコンクリートの床に腰を下ろした。

 力が抜けていく。

 かなり緊張していた自分に気付いた。

 さらに自分が裸足だったことも、ここにきて気付いた。

 コンクリートの冷たさを改めて感じた。


 そういえばここに漂着した時に着ていた洋服や靴を木々に干しっぱなしであることに気付いたが、今は取りに行く気がしなかった。

 はだしでもこの家の中にいる限りは問題がないし。


 この地下室を見渡す。

 機械のほかにもいろいろの工具が置いてある。

 詳しくは明日にでも確認することにして、一旦階段を戻ることにした。


 一階も電気が全て点いていた。


 もう一度洗面台のある部屋に入り自分の顔を確認した。

 ポケットから社員証を取り出し、見比べてみた。

 明らかに社員証に映っている顔にかかった眼鏡には近視特有の顔の輪郭の歪みが認められた。

 そう、この写真の男は間違いなく近視だということだ。

 だがそれを見ている俺の目に、周りの光景は問題なく映っている。

 その一番の問題点を除けば、その眼鏡をはずした時の顔は鏡に映っている顔とよく似ていると言っていいだろう。


 そのことについては一旦、思考の片隅に追いやった。

 やたら思考停止してる気もするが、まず生きるための確認をすることの方が有意義だ、と自分自身に言い聞かせる。


 目の前の洗面台の蛇口のレバーを上げる。

 最初にポコポコという音がして、ちろちろっといった水が流れ始めた。

 少し色がついていたその水は、やがて多量の水を噴出させた。

 慌ててレバーの位置を少し戻す。

 適量の透明な水が流れ続けた。

 俺はその流れる水に手をかざす。

 冷たい水の感触が俺の手にまとわりつくように流れた。


 俺は両手でその水をすくい、全く危険を考えないでその水を飲んだ。


 うまい!


 冷たく気持ちのいい感触が口からのどにかけて流れ込んだ。

 こんなに水をうまく感じるのは、おそらく初めてではないだろうか?


 よく考えれば、浜辺に打ち上げられ、アンジェラに起こされてから、初めて口にしたものだ。

 記憶を失っていたり、ミステリアスな半裸の美女を相手にしていて、あまり気にならなかったが、この体はかなり乾いていたようだ。


 洗面台にコップが置いてあることに気付き、そのコップに水を満たした。

 一気にそれを飲み干す。

 体全体にその水が染み込んでいく感覚があった。


 のどの渇きが人心地着くと、急速に空腹を感じた。

 アンジェラの話によれば、近くの木の実を食べたり、魚を捕まえて食べていたようではあるが、ここに食料がないか、確認しておく方が、確実な気がした。

 この洗面台の向かいの倉庫に、大きな袋がパンパンになったものがいくつかあったことを思い出した。


 洗面台の部屋を出て、向かいの倉庫に入る。

 ここも電気はついていた。


 棚に置かれた袋に日本語で何かが書いてあった。

 よく見ると、「コメ」「小麦」「麵」と書かれている。

 思わずガッツポーズをしてしまった。


 キッチンに炊飯器があることは確認していた。

 俺はコメを焚く準備に入った。




 炊飯器のスイッチを入れると50分後に炊き上がる予定になった。

 とりあえず順調にいっているようだ。

 調味料を探すと、一式が入った引き出しがあった。

 塩、醬油、砂糖、は当然あって、ラー油や、タバスコ、胡椒などの辛めの物や、何に使うかわからないものもそろっている。

 ふりかけもあった。


 この品揃えはどういうことなのだろうか。

 すべてが未開封なのだ。

 まさかアンジェラや俺が来ることが、最初からわかっていたのだろうか?


 謎が多すぎる。


 だが、俺は、前と一緒でこの件についても、一旦思考から追いやった。

 とりあえず、おにぎりが作れる。

 これだけで十分だ。

 中の具については、冷蔵庫に電気が通っていなかったのだ。

 無茶な要求というものだろう。


 汚れていたままの包丁を流しで洗い、スパイスが入っていた所とは違う引き出しにあった布巾で水分をふき取った。

 包丁を吊るすように作られたその引き出しにしまう。


 ここで、アンジェラがどんな食生活をしていたのか、ふと想像した。

 状況だけ見れば、木の実と言っていたが、果物の類や、魚を先の包丁で無理やり切り刻んでそのまま食っていたのではないだろうか。


 それに比べれば塩おにぎりはご馳走だろうと思う。

 思うのだが、外国人にはご飯の匂いが馴染めない人がいるとも聞いた。

 ダメなときは、その時考えることにしよう。


 俺は一旦キッチンから離れて、洗面所に戻った。


 さらに曇りガラスの扉を開き、バスルームに入る。

 ここも電気がついていた。

 さっき、キッチンから吹き抜けのあの巨大な照明、シャンデリアが綺麗に輝いていたことから考えても、すべての電源がONになっていたようだ。

 シャワーを取り、水を出す。

 その水流をバスタブに満遍なく流し、簡単に汚れを取った。

 バスタブの底にあった排水溝を閉め、バスタブの蛇口をひねり湯を張ることにした。

 バスタブのすぐ上のパネルには「41℃」の文字が浮かんでいたので、ちょうどいい温度になるはずだ。


 俺はキッチンに戻り、冷蔵庫と思われる物の前に立った。


 さて、中から何が出てくるか。

 冷蔵庫の前面中央にはほのかに光るLEDランプが、この冷蔵庫にも電気が通っていることを物語っていた。

 モーター音も微かに聞こえている。


 メインの扉を開いた。

 恐れていた、腐った物体たちは…何もなかった。

 全くの空だ。


 大きく息を吐いた。


 これでとりあえず、明日になれば、この冷却庫の中もかなり冷たくなってくれるはずだ。


 一通りキッチン周りを見て、問題がないことを確認。

 明日以降、倉庫に入ってるものも含めて食料の確保を考えないといけないな。


「カズ!何処にいるの!この家が急に明るくなって、なんだか怖い!」


 2階からアンジェラの悲鳴のような声が聞こえてきた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。

この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。

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