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第3話 ロッジ

「そう言えば、お兄さんの名前って聞いてないんだけど。」


 アンジェラが俺にそう聞いてきたときには、鞄に入っていたジーンズを履いて、黄色の下地にPV=NRTというワンポイントが入ったTシャツを着替え終わっていた。


 自分の名前は憶えていない。

 だが、何故か鞄の中に社員証が入っていた。


 株式会社 Global of drivetechnology 技術部長 石井 和久


 これが本当に俺かどうかはわからなかったが、写真付きだったのでアンジェラに見せた。


「イシイカズヒサさん、って言うんだ。じゃあ、カズって呼ぶね!」


「ああ。それでいいよ。実際実感がまだないからね。この社員証を見ても、全く他人事で何も思い出せない。」


 美女が俺の横に同じように腰かけた。

 脇から少女の綺麗な胸が俺の視界にダイレクトで迫ってきた。

 思わず反対方向に顔を振る。


「ん、急にどうしたの?」


 その整った顔で首を傾げられると、俺の心拍数が跳ね上がっちまうよ!


 胸を視界に入れないようにしてアンジェラを見た時に、胸の鼓動が激しくて苦しくなる。

 ただ、もう一度、アンジェラの着ている布を見て不思議に思った。

 裸でいること自体は全く恥ずかしくはないらしい。

 服は体温を保ち、外傷を避けるため。

 特にこの日差しから身を守ってるという事だった。

 にしては、腕も脚も太陽に(サラ)されたままだ。

 でも日に焼けてる様子はない。


 どういう事だろうか?


 今度はまじまじとアンジェラを見た。その服代わりの布を。


「それ、シーツだよな。ベッドにつける。」


「ああ、これ?」


 そう言って、おもむろにその布を引っ張った。

 脇から膨らみが揺れたのが見えた。

 若々しいその揺れに思わず自分の中の黒いものが増殖しそうになる。

 それを懸命に押さえつけ、その布を見つめた。

 肩、脇、太もも、両方に縛って作った簡素なものだ。

 適当に裂いて作り上げた物だろう。

 つまり、緊急対応で作ったという事だ。

 この日差しの下に出るために。


「そうだよ。眠るところに貼ってあった布。前にこんな日差しの下に出たら、身体が赤く痛くなったんだ。これでも学習してんだよ。」


 やはり、そうか。


「ここってね、甘い木の実がこの木々の奥にいっぱいあるんだけど、魚はここに来ないと居ないんだよ。暑い日差しの中で海に入ってたら気持ちよかったんだよね。魚を取りながら水浴びしてたら、夜に身体が痛くなっちゃたんだ。」


 その割には全く黒くなっていない肌に見惚れた。

 一々、綺麗な少女だ。

 見るたびに俺の中で「好き」という気持ちが上がってる気がする。

 この娘のことは全くわからないのに。


「アンジェラ、君はいつからここにいるんだ?一人きりなのか?」


「うん、独りぼっち。でも今はカズがいるから楽しい。やっぱり、人って一人じゃ寂しいものなんだって、カズに会ってから思った。」


 ニコニコしながらその綺麗な空色の瞳が俺を見ていた。

 という事は俺が来るまでは別に寂しくはなかったってことか?


「ああ、それと何時からいるかってことだね。う~ん、朝と夜が10回くらい変わったのは覚えてるけど、そこからは覚えてないかな。」


 10日以上前からここで生活してるという事か。

 しかも寝る場所にはベッドがある。


 いったいここはどこなんだ。


 俺はキャリーバッグの中身をもう一度確認した。


 あった。

 スマホだ。


 恐るおそる電源を入れる。

 画面が光った。

 よし使えそうだ。


 スマホの上部に記される情報を確認。

 バッテリーは充分。

 そして…、ああ、ダメか。

 当然圏外だった。

 だがGPSが使えれば…………、「位置が特定できません」のメッセージ。


 ここが何処だか、この土地がどうなっているのかは今のところ不明。

 島なのか、それとももって広い陸地の浜辺なのか?


 GPSをリセットして、時間を確認した。

 15:25。

 日の高さからするとそれっぽい。

 が、年月日はすべて0を表示していた。


 がっくりと肩を落とした。


「大丈夫、カズ?なんか落ち込んでるみたいだけど…。」


「あ、ああ、大丈夫だよ、アンジェラ。心配させたみたいで、悪かった。」


 既にこのアンジェラは10日以上を一人で生きている。

 という事は、とりあえず、命の危険は考えなくてもよさそうだ。

 それと寝床もあるらしい。

 逆にそれが異常に不自然にも思うが…。


「なあ、アンジェラ。君が寝ているところに連れて行ってもらってもいいか?」


「うん、もちろんそのつもりだったよ。カズがこの浜辺に流れてきたのを見た時から、その準備してたから!」


「俺が流れてくるところ?」


「そうだよ。私の部屋からよく見えたから。」


 そう言ってアンジェラは木々の奥の上方に顔を向けた。

 つられて俺もその方向を見た。


 立派なロッジ風の建物が視界に入ってきた。


 あれがこの半裸の少女、アンジェラの寝床?


 すでに俺が流されて辿り着いたここは無人島ではないかと思っていた。

 アンジェラのベッドも何かの拍子にここに置いて行かれたものではないか、建物があったとしても遥か以前に放棄された廃墟のようなものを連想していた。


 だがそこにあった建物は、別荘として今も管理されているような代物だったのだ。


「カズ、じゃあ、案内するから私についてきてね。」


 うきうきして肌を露にした透明感のある美少女が、可愛いお尻を見せびらかすように先導していて、俺は懸命に「PV=NRTって何の公式?」と頭の中で唱え続けた。

 そして、開けてあったキャリーバッグを慌てて閉めた。

 そのキャリーバッグを引きずり、アンジェラの後を追う。


 その建物までの道は快適だった。

 けもの道のように見えて、歩きやすくなっている。

 しかも、キャリーバッグに取り付けてあるキャスターも苦もなく回転しているのだ。

 しっかりと設計されたような歩き心地。

 両脇に腰位の立木が並べられている。

 雑草の類もなくはないが、鬱陶しい程ではない。

 建物まで来ると視界が広がって、海辺から見たよりもしっかりと管理された別荘。

 しかも富裕層向けの物件のような別荘を彷彿された。


 よく見れば、窓ガラスが割れていたり、ツタが少し伸び始めて壁をつたってるところもわずかに見られる。

 しかし、明らかにプロパンガスのボンベが3本備え付けられており、ホースが建物の中に引き込まれている。


 個人所有の島なのではないか。

 幸か不幸かそんな場所に俺とアンジェラが流れ着いた?


 そんな偶然があり得るはずがない。


「早く、早く‼」


 人の心を奪うような笑顔でアンジェラが俺を呼ぶ。

 玄関まで数段ある階段をキャリーバッグを抱えて上り、俺はアンジェラの手招きにしたがってその建物に入った。


 入ってすぐに天井がない屋根裏から垂れ下がっている大きなシャンデリアが目に入った。

 そのスペースはダイニングキッチンと居間がそのまま、広がっている。

 左手に階段があり、アンジェラはそこをテクテクと昇っていく。


 20歳前後かと思っていたが、この行動を見ているともっと若いのかもしれない。

 そう考えると、胸の膨らみは強烈だ。

 ただ、知識量は多いわりに常識、特に男女間の機微、羞恥心なんてものが解っていない。

 この階段を先にいけばもろに可愛い桃が俺の目の前にチラチラしている。

 俺は抱え上げているキャリーバッグを何度も持ち替えて、邪念と戦っていた。


 本当に目に毒だ。

 自分の凶暴な欲望を抑えるのが、だんだんしんどくなってくる。


 アンジェラは2階部分の一つの扉の前に立って、両手を広げた。


「ここだよ、ここ!」


 明るく俺に示す。

 えっ、なにが?


 アンジェラはその扉を開けた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。

この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。

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