女剣士 ローラ・ナッチュハム
彼女は魔王に支配された大きな街で産まれた。魔王はひどく人間を恨んでおり、支配した街に住む人間たちに対して酷い扱いをした。
時には理由もなく何万人もの人間を虐殺、処刑、生き埋めにした。その中には親戚もいた。
彼女はいつ死ぬかわからない時間を過ごしてきた。
「…………ま、おう」
ローラが5歳の時、街中を歩く魔王の姿を見た。
自分の何十倍も大きな体と、声を発せば重々しく胸にのしかかる重低音が響き、人とは思えない恐ろしい形相をみて彼女は泣いた。恐怖から泣いてしまった。
魔王はその泣き声を耳障りと感じた。よってまだ5歳だったローラを殺そうとした。だがそれは両親によって助けられ、彼女は街の外まで命からがら逃げ出せた。両親は死んだ。街から逃げる途中に後ろを振り返ると、死んだ両親の首を旗に吊るして迫り来る魔王の兵隊たち。その恐ろしい光景を彼女は今でも鮮明に覚えている。
「ゆる、さない」
元々言葉を発するのが得意ではなかったローラだったが、両親が殺され、魔王を見たショックから言葉をうまく出せない。それでも彼女の意思は固まり、魔王への復讐を目指した。
「いいえ、それは無理よ」
「え? ど、うし、て?」
「なぜなら魔王は勇者にしか殺せないの」
逃げおおせた先の町で出会った年配のシスターからそう告げられた。魔王は自分じゃ倒せない、顔も名前も知らない勇者にしか倒せないと言う現実。
その現実に直面して、少女は打ちひしがれた。希望をなくした。
「どうして泣いているんだい」
そんな彼女の元に一人の魔術師が現れた。少年の姿をしたローブ姿の魔術師は彼女におまじないをかけた。言葉が上手に喋れるように。
「魔術師さん……すごい、私ふつうに喋れてるよ。周りのみんなと同じ!」
「これは私からの最初の贈り物だ。そして最後の贈り物の相談をしよう」
「どう言う意味ですか? これ以上貰えるものなんてありませんよ」
「君は魔王に復讐したいのだろう。僕も同じだ。だからこそ、君に希望を与えようと思う。君が———勇者になるんだ」
魔術師からローラは入れ替わりの魔法の話を教えられた。それは時がくれば、私と勇者である少年の心と体を入れ替えると言うものだった。
自分が他人の、それも男の子になるなんて想像もできなかった。でもそれが出来ればローラは勇者になれる。
「時がくれば……君は勇者になれる」
「でも本当にそんなのでなれるのですか? なんだか、ズルい感じがします」
「これでいいんだよ。魔王に対する復讐心が必要なんだ。勇気なんて時代遅れだよ」
そうしてローラは魔術師と勇者になる約束をした。
15歳まで待てと言う事なので、それまでローラは最大限今の人生を楽しんだ。
勇者になった時に剣が使えるように、剣について学んだり、学問も勉強した。そのうち彼女は強い剣士だと噂されるようにもなった。
それと同時に、魔術師からは魔王の卑劣な行為と被害にあった人々の話を聞かされた。話を聞く旅に少女の中には魔王への執念が蓄積されていった。
———そうして時が来た。