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勇者 Tランテス・クロスホーク

 勇者の名前は(ティー)ランテス・クロスホーク。

 魔王歴50年7月7日に彼は誕生した。魔王に支配されてより50年、神から見放されたと思っていた人間の国々はようやく救いを得る。



「おぎゃあ〜! おぎゃあ〜!!」


「泣くな! 怨敵にバレる! 神のお告げから知ったんだ、お前は我らの希望となると!」



 雨の日、Tランテスは生まれた故郷から誘拐された。魔王を倒すために、支配された今も魔王と戦う意志を持つ者たちによって誘拐され、両親と引き裂かれた。

 その後誘拐事件の騒ぎを耳にした魔王は、その繋がりから勇者が産まれた事を知り、Tランテスの両親を勇者を産んだ罪で処刑した。



「TとはSTAR()からSATAN(魔王)の“S”を取ったTAR(タール)の“T”の意味。そして(ホーク)のように雄々しく、そして勇敢に戦い、世界を救うのだ。君の名前はTランテス・クロスホーク」



 煌びやかで神聖な教会だが、雨の中両親の元から攫われた子にとっては恐ろしい場所に見える教会にて、教皇から名前を授かった。

 その後、3歳になるまで泣くのを許されず、4歳になってからは魔王の非道な行いの数々を絵本などで読み聞かされ、6歳から剣と学問を教え込まれた。

 そうして15の夏、ちょうど生まれた日の7月7日に運命の日が訪れた。



「……これが勇者の剣。伝説の、魔王を倒すための剣!」


「やったね! ホーク!」


「ははは、ここまで長かったなぁ……ほんと長かった」



 Tランテスは父代わりの教皇に言われるがまま、旅に出て仲間たちを集めて、ついに魔王に打ち勝つための伝説の剣の元まで辿り着いた。

 誰も近寄れない聖域の奥にある剣。今まで四つの試練や、聖域でも様々な試練を神から与えられたが、それらを乗り越えて遂に勇者は辿り着いたのだ。

 仲間たちも喜んでいる。



「けど、ここからだ」



 問題は勇者Tランテスが剣を抜けるかどうか。

 勇者の剣は勇者のみが触れる特別で神聖な剣だ。それを抜く事ができれば、Tランテスは神々から勇者と認められるし、魔王を倒す事ができる。



「行くぞ………」



 恐る恐る剣に手を伸ばすと、その柄に触る事ができた。



「触れた!」


「やっぱりホークが勇者なんだよ!」



 Tランテスが剣に触れられた瞬間に、今まで勇者の旅路を助けてきた仲間たちも、自分達の信じた道のりが正しかったと確信する。



———が、そんな喜びも束の間、事態は急変する。



 ぐっ、ぐっ、とTランテスが力を込めて引き抜こうとしても、剣が台座から抜けないのだ。



「あ、あれ……」


「ど、どうしたのホーク」


「抜けない……」


「え? でも、触れてるよね!」


「っ!」



 仲間の一人が剣に触ろうとした。だがそれは剣の力によって弾かれる。勇者以外は触れないのは確かだった。

 しかし……Tランテスは触れはしたものの、引き抜く事ができなかった。



「どうして……」



 呆然とする仲間たち。



「はあっ、はあっ」



 必死に抜こうとしていた勇者も、脱力してその場に倒れ込み、尻餅をつく。




「なんで……抜けないんだよ。抜けるはずだろうが!」


「もしかしてホークはまだ剣を持つ資格がないって事なんじゃ……」


「え?」



 Tランテスは仲間からの言葉に青ざめた。心当たりがあるから、青ざめた。

 ここに来る道中でTランテスはなんの役にも立たなかった。弱い相手には安定して勝てるものの、強い相手が出るとすぐに恐怖が勝ってしまい戦えなくなる。

 そんな勇者を守るために仲間たちは尽力した。



「つ、つまり俺は……剣を振るための強さが備わってないって事か……?」



 ここまで勇者として勇気を出した場面は一度もない。

 漠然とした不安があったのもあるが……Tランテスは臆病だった。ずっと仲間に頼りっきり。

 その事に責任を感じて鍛えなかったわけではない。冒険の始まりの方で倒せなかった相手も、倒せるくらいには鍛えてきた。

 しかし努力も間に合わず、勇者の剣で試すところまで来たが、結果は無惨なものに終わった。



「じゃあ俺はこれからどうすれば……いや、やる事はわかってる!」



 15歳の夏、彼は強くなる事を決心した。



「鍛えて鍛えて、勇者の剣が抜けるくらいに強くなれば! きっといつかは……いつかは……!」




———意気込む彼の後ろで仲間たちは思った。


———彼の目的に自分達仲間は邪魔なのでは。


———仲間がいない場面で、勇気を出す事が条件なら。


———いつか勇者が死んでしまうのではないのかと言う、不安に駆られた。


———彼らは勇者の仲間だった。勇者が好きだった。



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