謬見
彼の机が、グランドの中央に佇んでいる。
そういえば。
昨日、彼がピアノの腕を披露しているときの情景が頭をよぎる。
イジメ常習犯の佐藤と外村がやけに批難している情景だ。
もしかしたら、そのせいかも知れない。
〝だったらどうする。お前は何を思う〟
そうだ。
俺は傍観者だ。
ここでアクションを起こそうが未来の予定調和には逆らえない。
足音が聞こえた。
その音の主は鈴木だった。
彼は教室に入ってくるなり慌てふためいた。
机がないことに気付いたようだ。
いつも笑顔の鈴木の顔は焦りを隠せないでいる。
彼は、荷物を無造作に投げ捨て、周りを必死に見渡している。
グランドの中央に佇んでいるため、すぐに見つけられたようだ。
彼は、一息つき、誰もいない廊下に消えていった。
何故か腹立たしい。
彼は憤怒することを知らず、むしろ安堵しているように見えた。
それが、悔しかった。
しばらくすると彼は、机を抱えてやってきた。
机を置いて、イスに座った。
「おはよう」
彼の僕への第一声は、挨拶だった。
「お、おはよう」
戸惑ってしまった。
「僕って、嫌われてるのかな」
いきなりの質問に驚かされた。
十秒間、静寂に包まれる。
「そっそんなことはないと思う」
何を言っているんだ俺は。
怨んでいたはずなのに。
「そっか」
それっきり、彼は日常に溶け込んだ。
今日は、やけに賑やかだ。
クラス内が活気であふれている。
いや、考えすぎか。
朝の出来事以来、聞こえるもの全てに過敏になっている。
そんな気がした。
また〝今日〟が終わる。
憂鬱な一日が。
帰ろうとした。
鈴木がいた。
いつもの風景だ。
しかし、珍しく周りに追っかけがいない。
隣には女性がいた。
手をつないでいる。
『音楽室で告白したらしいよ』
『え? ダメって言われたんじゃないの?』
『それがね、鈴木君が今日、告白したんだってさ』
『もう手つないでるよ』
『ちょっとありえないよね』
女子の話が勝手に耳に入ってきた。
音楽室、告白、鈴木。
あの情景が蘇ってきた。
そう。
俺の初恋相手が告白している情景が。
彼と彼女は笑っていた。
お互い手を握り締めて。
帰宅した。
俺は泣いていた。
いつの間にか暗くなっていた。
朝は来るって誰かが言っていた。
夜は長いな。
まずはじめに、すみませんでした。平日は二日に一回のペースにしたいと思います。はい。評価おねがいします。感想や指摘もバンバン受け付けています。