報復
彼は、お昼休みなどにも女子を引き連れ、音楽室でピアノの腕を披露していた。
俺は、外から聞こえるピアノの音色を聴きながら、本を読んでいた。
彼の音色は認めたくはないが、確かに美しい。
だが、まだまだだ。
ミスタッチや強弱の付け方などなら、まだ俺のほうが上だ。
しかし、彼はピアノだけではない。
そう思ってしまうと、自分の中の自分が堕落していく。
自分の良い所を必死に考える自分が。
『キーンコーンカーンコーン』
昼休みが終わった。
これから五時間目の授業が始まる。
この五時間目が終われば〝今日〟が終わる。
家に帰っても大してやることはない。
時が経てば、また〝明日〟がやって来る。
なのに、やけに気持ちが高揚する。
「福田君。芯、貸してくれないか」
鈴木が俺のほうを向いて催促してきた。
なぜ、俺なんだ。
お前の好きな女子からればいいだろ。
「だめか?」
ここまで強要されたら貸さない奴はいないだろ。
と、思いながらも無言でシャープペンシルの芯を二本手渡した。
鈴木は申し訳なさそうな顔をして「ありがとう」と言って大切そうに受け取った。
そう考えると良い奴なのかもしれない。
人間として、大切な礼儀がちゃんと身に付いているし、性格も良い。彼を嫌う者はいないだろうと思えてしまうほどだ。
ただ、自分の技術を見せびらかしていることだけが余計なのだ。
いや、これは自分が妬んでいるだけなのかもしれない。
常に苛立っているこの時期に、そのようは言葉は通じなかった―
『キーンコーンカーンコーン』
下校の時間だ。
俺は部活に所属していないため、いつも足早に学校を後にする。
しかし、この日は委員の仕事で掲示板の張替えをしていた。
音楽のポスターを張替えに行くため音楽室に行くことになった。
音楽室に近づいたと同時に、反射的に体が硬直した。
人の声がする。
『・・・・・え・・・・・な・・・・・・・でし・・・』
よく聞こえない。
足音を立てないように恐る恐るドアに踏み寄った。
『私と付き合ってください!』
驚いた。
その声の主は、俺の初恋相手だった。
相手は誰なんだ。
『僕には他に好きな人がいるんだ。君の気持ちは嬉しいが君とは付き合えない。』
鈴木だった。
状況が理解できない。
なぜか体が小刻みに震えだした。
俺があんなにも想っていた人がこんなにも容易く、フラれてしまったのだから。
彼女は、泣きながら音楽室を背に走っていった。
鈴木は彼女を追おうとはせずに、音楽室の中央で、うつむいている。
俺は、驚愕の事実に目を向けることは出来ずに、足早に音楽室を後にした。
次の日。
俺は疲労で言うことを聞かない体を無理矢理動かし、登校した。
教室に入ったなり違和感を感じた。
俺の、前の席の鈴木の机が見当たらない。
なぜか、グランドのほうに目がいった。
グランドの中心には、
彼の席にあるはずの机が、
ポツンと投げ捨ててあった。
展開がなくて面白くないですね。次回は急展開を加えて行きたいと思います。評価、感想どんどんしちゃってください。