嫉妬
中学の入学式で逢った時から彼女から目が離れないでいる。
それは初恋だった。
「福田君。おはよう」
こいつだ。
こいつのせいで俺の初恋は終わったんだ。
「おはよう」
返事には、いつも少し間をおいて機嫌が悪いかのように接している。
彼の名は鈴木。頭脳明晰で性格は温厚。運動神経もよく、テニス部に所属している。春には一年生ながら団体で出場し県大会準優勝という好成績を残した。そんな中学生の〝模範〟的存在の彼だが凄いのはそれだけではない。小さい頃からエレクトーンやバイオリンといった特殊な技能も研磨している。
そんな彼を女子が黙っているわけがない。
こいつの虜になった女子は数え切れないほど存在する。
俺の初恋相手もその一人だ。
そんな彼を俺は憎んでいた。
確かに彼は、能力を身に付けるためならば努力を惜しまない。
しかし、彼が生まれつき兼ね備えている能力、条件、立場、全てにおいて平民を超越している。
〝そもそも不条理な世界なんだ〟
そっと、心の中で囁いた。
一時間目は音楽だ。
音楽は第一音楽室のため、新校舎に移動する。
勿論、俺は一人で。
別にイジメに遭っているわけでもない。
俺から拒絶しているのだ。
入学当初は俺に声をかけてきた奴もいたが、適当に相槌を打つ日々。
そのうち俺に近づく者はいなくなった。
俺の前には女子が群れをなしている。
その中心には、あの鈴木がいた。
相変わらず人気者だ。
音楽室に行っても、これといってやる事はない。
寝ているふりをしている。
毎日が、そんな日々だ。
しかし俺みたいな人格を持っていると大抵、イジメに遭う。
俺も過去に一度、イジメ常習犯の佐藤と外村にイジメられた。
シャープペンシルの芯を全て折られていたり、教科書の1ページを切り捨てられていたり。
幼稚なことに苛立ちを隠せなかった俺は、佐藤の筆箱をトイレに流してやった。
佐藤は憤怒した。一日中『誰だ!』と叫んでいた。
それが快感だった。
しかし、それ以来、イジメの対象は俺ではなくなった。
勿論、嬉しい。が、あの快感を得られないとなると悲しい部分も少しある。
気付けば、鈴木がピアノを弾いている。
女子の歓声が耳障りだ。
その中には俺の初恋の相手もいた。
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
俺は小学校一年生からピアノを習っている。今でもたまに顔を出す。
経験や実力からしても俺が上を行く。
だが、評価されない。
俺は、この劣等感を抑えられず、今にも罵声を上げそうだ。
思えば、佐藤や外村などからも、鈴木を批難する会話が聞こえてくる。
音楽の先生がドアを開けた。
ピアノの周りに集まっていた生徒は、足早に席に着いた。
そして福田にとって憂鬱な一日が、また始まった―
どうも。茶柱です。二度目の投稿となりました。評価よろしくおねがいします。感想も気軽に書いてくださいな。