表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踏み台転生したらなんかバグってた  作者: どろにんぎょう
第二章 ダンジョン・ブレイキング
32/36

デュエル



 決まったな、と。

 アイラ・ル・リル・ラ・ネフィリアムは、慢心ではなく現状を分析した上で、そう断じた。

 確かに、葛籠織日鞠は強者である。

 それは間違いないことであり、実力についてだって、自分と同じか、あるいはそれ以上だっただろう。

 だからこそ、初撃が重要だった(・・・・・・・・)

 実力がほとんど拮抗しているが故に、先に負傷した方が敗北する。そういう認識がまずあった。

 今の一撃は、確実に左腕を砕いただろう。無論、その程度で倒れるような女では無いだろうが、激痛が全身を駆け巡っているに違いない。

 魔法魔術に限らず、戦闘というのは集中力が物を言う。

 さて、片腕を潰された状態で、どれほど戦闘に集中できるだろうか? 余裕を保ち、常に分析していられるだろうか?

 まだ決闘は始まったばかりであり、一度も負傷していないこちらが圧倒的に有利だ。

 このまま長期戦に持ち込み、じわじわと体力を削っても良いし、一気に仕留めてしまっても良いだろう。

 この決闘は、今やネフィリアムの手の中にある。


(……決めた。一息で始末してあげるわ、葛籠織さん。貴女は強かったから、そこには敬意を表しましょう)


 射撃魔法を複数展開し、並行して魔術の詠唱を口遊む。

 そこには「後はもう仕留めるだけ」といったような慢心は、欠片ほども存在しない。

 飽くまで健在であることを想定した上で、全開の火力で叩きのめす。

 

(悪いけど、日之守くんはいただくわね……いえ、日之守くんの隣、と言うべきかしら)


 日之守甘楽。

 異質な強さを持ちながら、どこか惹かれてしまう少年。

 見ていると、自身の本能が……あるいは才能が、《《この人だ》》と叫んでいるような感覚に陥る、恐ろしい男の子。

 きっと、葛籠織も同じ感覚を得たのだろう。目を見れば、そのくらいは容易に分かる。

 まあ、だからこそ、奪いたくなるのだが。


「目標、捕捉──3」


 砂煙から姿を現したものの、彼女は動かない。

 否、動けないのか。


「2」


 関係ない。ギブアップしていないのなら、意識が飛ぶまで叩きのめす。ただ、それだけだ。


「1」


 けれども、まあ、迷宮攻略は三人で、とのことだったから。

 私と、日之守くんと、おまけで貴女でも良いかもしれないわね、なんてことを思った。


『Sparare!』


 杖が叫び、魔法は起動する。

 同時にアイラは勝利を確信し────


「あは~、日鞠、分かっちゃった(・・・・・・・)~」


 普段と変わらない、緩やかな声がした。

 しかし、その瞳はかつてないほどに世界を捉えている(・・・・・・・・)

 ネフィリアムは、瞬時にまずい(・・・)と思った。

 思った時には、遅かった。


彼方よ(Aurora )り極(dall'a)光を(ltra parte)


 殺到したネフィリアムの、決着をつけるだけだった魔法魔術は、しかし、振り抜かれた極光によって打ち砕かれた。

 何の抵抗もなく、ただ光に呑まれるように。


堕ち行(Lamenta i)く天に( cieli che)嘆きを( cadono)


 光の柱が、空から幾つも降り注ぐ。

 影を生み出す余地を残さず、ただ真っ白な光に染め上げられていく。


願いを(Desideri )此処に(qui)


 世界が光に沈んでいく。世界が光に呑まれていく。

 影は残らない、逃げ場所はどこにもない────それなら!


(同じように、喰らい尽くしてあげるわよ!)


 葛籠織日鞠は稀代の天才である。今この瞬間、埒外の魔術を行使していることからも、それは分かるだろう。

 さりとて、ネフィリアムもまた、天才なのである────魔術に話を限定するのならば、今なお彼女の方が練度は上だろう。


影よ(Ombra) 大いなる(Grande )影よ(ombra) 海の如く広が(Ombra )りし深淵よ(infinita) 忌々し(Ingoia )い光を(quella )呑み(dannata )下せ(luce)!」


 初見である葛籠織の魔術に対して、ネフィリアムは反射で特攻魔術を組み上げた。

 地の底から、這い出るように湧き上がってきた影は────しかし、空から落ちて来る、無数の極光によって打ち砕かれた。

 拮抗することすら出来なかった。

 ただひたすらに、蹂躙され、食い潰される。


「────え?」


 間の抜けた声が、ネフィリアムの口から零れ落ちた。

 そう、ネフィリアムは天才だ。加えて、努力を怠ることの無い勤勉な生徒でもある。

 だが、足りない。

 それだけでは葛籠織日鞠には届かない。

 彼女が見るは、遥か先の未来。英雄となった少年の隣に立つ、最高の自分。

 そこに至る道を、最短距離で進んできた彼女は既に、立っている次元(ステージ)が違う。

 敢えて痛みを許容することで、進んで窮地に立つことで、これまで開けなかった扉を、葛籠織日鞠は今、力ずくでこじ開けていた。


光の(Gocce )雫は(di luce) 全てを(Perdona )赦すだろう(tutto)


 肉体から魂までをも満たす、猛々しい想いのみが、日鞠を支配する。

 一つに収束された、少年に対するあらゆる感情がまた一つ、彼女を新しい段階へと引き上げる。

 視える世界が変化する。感じる世界が変化する。


我が身に(La luce )宿り(che abita)し光は( in me)天光(Aurora)》」


 それは魔術の深奥、その一端。

 極めし者のみが到達しうる、世界の真理。その一つ。

 場を支配し、自らを高める『魔装』とは別の極致。

 《《世界の理すら捻じ曲げる一撃必殺》》。魔術の秘奥───根源魔術(・・・・)


天の意(La volontà)思は此( del )処に(cielo )在り(è qui)


 遍く総てを呑み下し、浄化し、完全に消滅させる極光が絡み合って一つとなる。

 存在ごと灼き消すことの出来る、理外の一撃が、空から落ちて来る。

 さながら神の裁きね、と。

 ネフィリアムはまるで他人事のように思う。その手が、杖を振るうことは無かった。

 否、振るえなかった、と言った方が正しいだろう。

 日鞠は今、ここら一帯の魔力を完全にコントロール下に置き、その総てを根源魔術に注ぎ込んでいる。

 即ち、ネフィリアムは負ける……いや、いいや。


(これは、流石に、死んだかしら)


 待ち受けるのは死のみだろう。

 救護班がいようがいまいが、最早関係はない。肉体の一片すら残らないことは、間違いないのだから。

 それを意識すると同時に、全身が竦んだ。身体は震え、ペタリと座り込んでしまい。

 抱擁するように極光が────


「砲撃魔法:重複拡大展開!!」

『Magia del bombardamento:Espansione di Distribuzione duplicata』


 ────届かなかった。

 一人の少年が、背を向け魔法を行使していた。

 オプションをスキップし、即座に撃ち放たれた計百の砲撃魔法が、光を押し留めて道を阻む。

 根源魔術とは、この世界における究極の一撃必殺だ。

 それに魔装で、あるいは同じ根源魔術以外で、打ち克つのは不可能である────普通であれば。

 だからこれは、夢であるのだろう。ネフィリアムはそう思う。

 そう、だって、有り得ないはずなのだ。

 磨り潰されるどころか、砲撃魔法が根源魔術を打ち破るなんて。

 消し飛ばされた極光の残滓が、パラパラと降り注ぐ。

 百を超えてなお、増え続けていた砲撃魔法は霞のように消え去った。

 そして、


「平気か? ネフィリアム」


 何でも無いように、少年は笑いながら手を差し出すものだから、ネフィリアムは。


「は、ひゃい……」


 顔を真っ赤にさせながら、その手を取りながら気絶するのだった。





 し、しししし死んだと思ったァーーーーッ!

 葛籠織、もしかして史上最大の馬鹿なのか!? 殺す気満々だったじゃねぇか今の!

 根源魔術を使ってるだとか、お前が習得するのは魔装じゃなかった? とかいう疑問全部ぶち抜くレベルの衝撃だったんだけど!?

 マジで間に入らなかったらネフィリアム、消し飛んでたからね?

 何があったらそこまでやろうと思えちゃうんだよ……いや、単純に初めて発動したから、加減が効かなかっただけな気はするけれど……。

 いや、本当、マジで焦った……。

 途中でかなり押し込まれた時、かなり終わったと思った……。

 杖も脳もフル回転させてなかったら、本当に死んでいた。

 クソッ、今になって足が震えてきやがった。

 勝つとは思っていたが、まさかこんな形になるとは思わなかった……。流石にちょっと反省して欲しい、と葛籠織を見れば。

 フラフラッとした後に、彼女はその場に頽れた────ので受け止めた。

 お陰で左手にネフィリアム、右手に葛籠織である。

 何か本当に、最悪な両手の花になってしまった……と思いながら、巻き起こる歓声から目を逸らすのだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ