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踏み台転生したらなんかバグってた  作者: どろにんぎょう
第一章 バグった世界で何をする
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空の戦い


 ウィル・クラウネス。

 パッと見では、普通の腕とは何ら変わりない義手と、ほぼ一体化している杖を振るい、腰ほどまで伸びた銀髪を風に靡かせる、『学園最強』の女。

 一見、好戦的にすら見える隻眼。

 魔法と魔術、どちらも巧みに扱い──しかし、その全てを近接戦闘に注ぎ込んだようなスタイルを好む、自称剣士(・・・・)

 アルティス魔法魔術学園の八年生であり、恐らくは、史上初の迷宮単独踏破を成し遂げた、『学園最速』。

 生まれ持った先天性魔術属性《加速》により、地上より空中の方がよっぽど厄介だと評される、魔法魔術師────そんな、ウィル・クラウネスが、


「ク、クハハ」


 と。


「クハッ、クハハ、クハハハハハッ!」


 と。


「クハハハハハハハハハハハハハハハッッ!」


 と──さながら悪の親玉みたいな高笑いを発しながら、上空を駆け抜ける。

 ビッタリと、こちらの背後にくっつくように。

 つまり俺は──俺達は今、彼女に追いかけられていた。


「おいおいおいおいおい! 逃げてばっかじゃあ、つまらねぇじゃあねぇーかぁ!?」


 見せびらかすように展開された複数の魔法陣から、雨あられのように射撃魔法を飛ばしてきながら、彼女は叫ぶ。

 先日、レア先輩に秒でボコされたくせに、その怪我はきっちりと治されたらしい。

 特別、心が折れたという訳でもなさそうで、むしろ昨日よりずっと楽しそうだ。

 剣士名乗るなら、空戦でも接近戦してこいや……とか思ってしまうのは、仕方がないことだろう。


「──葛籠織、迎撃いけるか!?」

「いけっ、るけど~、ずっとこれだったら~、耐えられないよ~?」

「わかっ、てる……けどっ」


 技術的な問題で、振り切れる気がしない──とは思うだけにして、()()()()()()()()()()()()()杖を振るう葛籠織ごと、クラウネス先輩を見る。

 距離は充分に取れている……けれど、多分、その気になればすぐに埋められる。

 彼女が浮かべる、余裕綽々な表情からそれを読み取り、俺は()に魔力を流し込んだ。

 悲鳴にも似た音を上げながら、箒は加速する。

 それによって増す、全身に襲い掛かって来る負担を別の魔法で処理しつつ、更に高度を上げるべく、穂先を空へと向けながら、


(うおおおお! 何でこんなことになってんだ……ッ!)


 と、俺は遠くで戦ってるのだろう四年生組に、早く助けてくれと願うのであった。










 さて、恐るべき逃走劇に至る経緯を整理するとしよう。そうする為にはまず、各寮対抗戦二日目の内容を知らされることになった、試合開始数時間前まで遡るのが妥当だろうか。

 初日はレア先輩が、完膚なきまでの圧勝を披露してくれたが、各寮対抗戦は三日──つまり、合計三試合ある。

 二試合は勝利を収めないと、優勝は手に入らない……初日の勝利だけでも、充分に汚名は返上したように思えるが、それは多分、赤の不死鳥寮のみに限定した話になるだろう。

 黒の人魚姫寮と、白の一角獣寮は、今頃メラメラと闘争心を燃やし、「クソが、次の試合では叩きのめしてやるよ」くらいのことを思ってる生徒の方が多いはずだ。

 その辺もまとめて、「やっぱすげぇよ、赤の不死鳥寮……」と思わせておきたい気持ちがあった。

 それに、優勝はしておいた方が、色々とアドバンテージがあって良い。

 表彰されるとなれば、当然ながら校長とも直接対面できる訳だしな。

 魔装に至ったことを絡めて話せば、多少なりとも信用はしてくれる……はずだ。

 そういう訳で、二日目も頑張るぞと気合を入れつつ控室に集まれば、既に我が物顔でソファを独占していたアテナ先生が、


「お、ついに来たね、少年少女たち──では、せんせーの方から二日目の内容を開示するとしよう……今日の試合形式は、空戦(・・)だ」


 と、何とも面白がるような顔でそう言った。

 空戦。それは、上空で行われる形式の戦闘────と言うのは、少し間違っている。

 正確に言えば空戦とは、上空により行われる超高速戦闘(・・・・・)だ。

 噴射(Abito da )推進式(volo tipo )( propul)(sione a)礼装( reazione)──通称:箒を用いることで音速にまで達し、その上で互いを落とし合う、実に物騒な戦いである。

 いや、まあ、戦ってる時点で物騒もクソもないのだが……。

 それはそれとして、その情報に俺は──というか全員、ハチャメチャに顔を顰めることになったのだった。

 というのも、アルティス魔法魔術学園で本格的に空戦が教えられるのは、三年生からだからである。

 一年生で陸戦(こちらは言葉通り、ただの地上戦だ。先日の勝ち抜き戦がこれに該当するだろう)に慣れ、二年生で飛行魔法を習得して空に慣れ、三年生になってようやく、空中での高速戦闘を教え込まれる。

 つまり、俺と立華くんと葛籠織は、完全に未経験であるのだ──箒の操作に慣れていないどころか、空戦においてどう動けば良いのかすら分からないのである。

 こういったこともあるから、各寮対抗戦のチームは基本的に、四年生以上で構成されている。

 今頃、白の一角獣寮と、黒の人魚姫寮の連中は、多少気が楽になっていることだろう──なにせ、戦力として数えられるのは、月ヶ瀬先輩とレア先輩だけと考えられるのだから。

 しかも、レア先輩に関しては、


「も、申し訳ございません、全然回復いたしませんでしたわ……。一晩寝て戻った魔力は、大体三割といったところでしょうか……」


 とのことであり、頼りになるのは月ヶ瀬先輩だけとなっていた。

 無論、空戦が行われることになる可能性を、考慮していなかった訳ではない。

 考慮していなかった訳では無いのだが──現状の何もかもが、想定外すぎであるのだった。

 状況は割と最悪、と言っても良いだろう。というのも、今日赤の不死鳥寮(うち)が勝てば、その時点で優勝は決まりである。

 しかも、魔装が使えるレア先輩と、空戦における天才と謳われる月ヶ瀬先輩がいる。

 ──つまり、黒の人魚姫寮と白の一角獣寮は、優先的にこちらを狙いに来るのが目に見えているという訳だった。

 これでは実質、十対五(というか一)の形になってしまう。

 五対五対二(おまけで三)であれば、やりようは幾らでもあったんだけど……。

 如何にも学生らしい、考えの甘さが出てしまったことを、ここに来て痛感してしまっていた。


「ちょっとこれは、どうしようか……」

「……捨て試合にしましょうか?」

「ん~、でもでも~、やるからには勝ちたいよ~?」

「そう、ですわね。わたくしのせいであるのは重々承知ではありますが、それでも全力は尽くしたいですわ」

「とはいえ、僕ら一年組では、箒をオート操作にした囮しか出来ないし、レア先輩も長くは飛べないだろう」


 五人揃って頭を突き合わせ、苦悶の表情を浮かべることになってしまった。

 ゲームの時は特に思わなかったけど、直前に試合形式を伝えるのは、普通にシステムとしてダメすぎるだろ……。

 焦るせいで、思考が空回りする。

 ちょっとこれはもう、諦めて特攻かけるしかないんじゃないの……みたいな雰囲気が流れ始めたところで、


「おやおや、お困りかい? 生徒諸君」


 ぼんやりと煙をふかしていたアテナ先生が、如何にも秘策がありますよ、みたいな顔でそう言った。


「それなら仕方ないなあ。ここはせんせーが先生らしく、ちょっとだけ助けてあげよう」

「アテナ先生に……?」

「いやちょっとキミね、そうやって訝し気な眼を向けてくるのはやめたまえ……これでもせんせーは、そこそこ有能なんだよ?」


 見ていたまえ! とアテナ先生は展開した魔法陣に腕を突っ込んで、大きめの箒を二本、取り出した。

 ……?

 何? これは……。


「せんせーはさぁ、常々思っていたんだよね。空戦は、一人でこなすにはやることが多すぎる(・・・・・・・・・)って──箒の操縦に加速減速、身体にかかるG等に対する守護魔法、あるいは専用の分解魔法に加えて、敵を視認し、攻撃と防御までしなくちゃならないだろう? しかも、ほとんどの場合において、速度は音速の域に達している」


 もちろん、それらをこなすために、二年からじっくり教えてるんだけど……やっぱりこの辺は、センスの問題にもなってくるだろう? とアテナ先生は言葉を紡ぐ。

 なんか突然、講習みたいなのが始まったな、と渋い顔をしてしまったが、先輩たちは納得の表情で頷いていた。


「だからさ、以前思ったんだよ。これ、役割分担したら良いんじゃない? って。操縦と、攻撃にさ。あるいは、片方を魔力タンクにしても良いだろう。で、そう考えた結果の産物がこれ──つまり、二人乗り用の箒(・・・・・・・)だ」


 これなら未熟なキミらでも、そこそこ戦えるんじゃない──なんて言いながら、アテナ先生は俺に箒を押し付けてきた。

 ま、少年ならやれるよね? と付け加えて。

 そして。


「ペアとしては、こうだ。キミと葛籠織。リスタリアと空城。この二ペアで、月ヶ瀬を援護するように、一丸となって飛んでもらう」


 さ、いってらっしゃい。と、アテナ先生は親指を立てながら、にこやかに言った。




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