第五話。後編 last-11
「そう、3回だった。だが看守は覚えていたよ。届いた差し入れは全部で5回だったと」
「……そうか。千尋さんも彼に差し入れを」
私の脳裏に差し入れを届けるあの人の顔が浮かんだ。どんな表情していたんだろうか……。
「そのうちの2回、おそらくはその千尋って人が届けたものだろう。容器が違っていたと。これ逆だよな、岩永」
……成る程、そう言う伏兵がいたか。記憶力の良い看守もいたもんだと。
「お前、なんでわざわざ容器を移し替えたりしたんだ?」
私は口元に笑みを浮かべながら、この時は沈黙を守った。いいぞその調子だ。
「俺は最初、Aと秘密のやりとりをしながら、脱獄の計画でも練っているのかと思っていたが、Aと言うやつは意外と綺麗好きだったようだな。わざわざ容器についたソースなんかの汚れを洗い流してから捨てていたらしいな」
脱獄用に何か道具でもとも思ったが、お前が入れ替えた容器は、わざわざ透明で中がよく見えるやつだった。そしてあの店で、初めて持ち帰りの注文をした時、料理が入っていたのは白い発泡スチロール製。当然、中は見えない。
「うん、まぁそれがどうしたと言ってしまえばそれまでだと思うが。そうだな、例えば私が入れ替えた容器は耐熱性で、レンジで温められるようになっていたとしたら?」
実際、そういう容器をわざわざ買って入れ替えていた。
「うん、まぁ容器については別に深く掘り下げようとは思わないさ、例えば、水性のペンで何かメモをとかな。まあ結局のところAの刑は執行済みだし、どんな内容だったとしても意味はない。だが疑念は充分だ」
わざとに、そう仕向けられたような感じなくは無いが、と和泉は言う。そして話はそのメッセージに戻るわけだが。
「Aは、こう言っていたそうだ。俺の親父によろしくな、先に地獄で待ってるって。だ、そうだ」
地獄で待ってるか、残念だったなA。お前みたいな善良な少年は、地獄に居場所はないよ。私は口から笑いが漏れ出るのをギリギリのところで抑えた。
「親父?さて、そういえば彼の父親については、ほとんど何も聞かされてはいなかったな……経緯については、聞かされてはいたが……」
「そうか。まぁ確かに、これから結婚しようと言う男に対して一応は、話しておくだろうなぁ。昔、自分をレイプした男の子供を生んだんだと。少し、飛ばすぞ」
いつものように、高速に乗ってスピードを上げる。後続には3台の、おそらくは覆面であろう車が続く。ミラーを見る限りでは中の人間の様子は見えない。




