第五話。【最終話 〜とある殺人鬼は斯く語り逝く〜】後編 last -9
「こういうのはさぁ、結局のところ勢い勢いなんじゃないかなと、私は思う。確かに時期は悪いかもしれない。が得てして何かを決断すべき時と言うのはこういうことなんじゃないかと、最近私は思うんだ」
実の息子が死んでまもなく、自身は結婚し新たな未来を歩み始める。その1つのケジメ、踏ん切りとしての儀式。そう言って私は彼女を説得した。
その言葉が実に卑怯で愚劣であるか、充分に承知の上で私はこの行為に1つの光明、救いを求めていた。
「お前も、決めるときにはさっさと迷いなく決めたほうがいいぞ。前にも言ったが、お似合いじゃないか、彼女。お前にはもったいない位だよ」
「……ほっとけ、こっちはこっちでいろいろ事情があるんだよ」
その辺もまた察して余りある。おそらくは草薙の件が決着を見るまではとお互い、確認し合うまでもなくそう決めているんだろう。
難儀な事だ、がそんなことを言っているとお互い婚期を逃しかねんぞ。そう思いはしたが口には出さなかった。
「そういえば、今日は彼女の姿がないな。別の仕事か?」
私から切り出した。恐らく、私の想像が正しければ……
「あぁそうだな、彼女は別件で動いてもらっている。といっても別に遠くにいるわけじゃない」
「……さしずめ、私を逃さないための包囲網づくりか?」
私の言葉に和泉は何も答えなかった。沈黙が雄弁にその意味を肯定してくれている。和泉の表情から、余裕が消えた。
「……俺はここ数年とある事件ずっと追ってきた。ICPO時代に担当した、今思えば何の事は無い極々つまらない事件に引っかかりを覚えてから、ずっと」
レディーL 。彼の口からその名前が出たのは今日が初めてだった。もちろん、私はよく知っていた。そういう俗称がついているらしい、と言う程度ではあったが。
「世界中で毎日のように起こるテロ、あるいは猟奇的殺人事件の裏で見え隠れする人物。その容疑者リストの中に君の母、岩永浩子の名前が上がった時から俺は、無数の蜘蛛の巣が張り巡らされた洞窟の中を、明かりもなく進んで行くような感覚だったよ……」
今日はよくしゃべるじゃないか、和泉。まるで私の死刑判決、その主文と判決理由を読んでいるようだった。お前にとって確かにそこが全ての始まりだったのかもしれない。だが……
「だが、その蜘蛛の糸と言うのは、お前のためだけに張り巡らされたわけじゃ、ないのだろう?」




