第五話。前編 last-6
「ありがとうございます、その時が来たら是非、よろしくお願いします」
私は編集長に便宜上、そう言って挨拶もそこそこに電話を切る。するとさほど私の携帯電話が着信を告げる。和泉からだった。
「今から少し、話せるか。色々分かったことがある」
少し前まで話し中だったことを、気にしていたようだがそれはそれとして、ついに来たかと。最後の詰めの一手。もし仮にこれに失敗すれば、私は逆王手をかけることになるだろう。そうでなければ……。
今後、考える懸念材料は可能な限り手を打ったつもりだ。後はこの数日かけて仕上げた手紙を投函するだけだ。それで、すべての仕込みは完了することになる。
「……私だ、今から彼と会う。後は手筈通りに」
了解した。そう聞こえた声はいつものように機械によって変調されている。その「音」からは相手が男なのか女なのか推測することができない、母の信奉者の1人である。
…………………………
「すまんな、こんな朝早くから。っていうかお前、さっきまで電話してなかったか?」
結構な長さだったと思う。数回はかけ直したことを俺は岩永に告げた。
「ああ、さっきまで編集長と打ち合わせをしていたからな。これから自宅に原稿取りに来てもらうことになっているが……」
「忙しいんじゃないか、取りに来るのを待っていなきゃいけないんじゃないか?」
そう岩永に問うと、いつものことだと。不在の時は郵便ポストにスペアの鍵を入れているので、それを確認してから部屋に戻り原稿をもっていくのだと思う。
「帰り際に、玄関の郵便受けに鍵を落としてもらって」
「なるほど、良いやり方だと思うがポストにスペアキーを入れるのは少々不用心すぎると思うがな」
そう言うと彼は、まぁめったにないことだからと。じゃあ今から大丈夫か?迎えに行くが、と問うと、
「来るなら早くにしてくれよ?私は今日、午後の便で海外だ」
「海外?何しに?」
取材旅行だ、本格的に小説書くための。ここ数日の出来事、報道で彼は何かを察したのだろうか、少し興奮気味に言った。
これはまずい、逃げられる。たまたま今日になったがある意味、幸運でしかもそれがギリギリのタイムリミットだったのだ。
「そうか、じゃあついでに俺が空港まで送ってやる。それまでの時間少しくれるか?話しておきたいことがある」




