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第五話。前編 last-5

 その後の【日々の営み】の中で、彼女のことはいつの間にやら、忘却の彼方へと追いやってしまい、母の言う天運は私と彼女との間に数奇、と言っても過言ない運命を用意していた。


 正直に言おう。あの日以来私は女に対して、一定のオーガズム以上の興奮を覚えなくなってしまった。

 私に課せられた【訓練】が私の精神、そして肉体を徹底的に破壊し尽くした。人の子として生まれたものが、人ならざるものによって何か、別のものに変えられていく過程。

 それを余すことなく体験していく中で、彼女の記憶は完全に取るに足らないとして私の中から忘れ去られていった。


 そんな人でなし、ろくでなしだった私が、今更のように人並みな感情を思い出す日が来ようとは。つくづく、私は後継者失格だ。

 私はその感情に突き動かされるまま、あの店に通い続けた。ほどなく、私は彼女を抱いた。何のためらいもなく、野に咲く花を手折るよりたやすく。

 そこへ至る過程は文字通りいつもの【狩り】、そのルーティンに破綻はなかった。

 破綻は、その初めての夜から始まった。自身、信じられないほど溺れた、貪りついた。それは彼女にとっても同じだったのかもしれない。


 だが、いつまでも溺れているわけにもいかない。破局が近い。Aの刑が執行されて以降、奴からの連絡はない。彼は彼なりにこの一連の事件とその関連性について、証拠は無いにせよ真相に行き着いていると思われる。

 そこから私をどう突き崩し、落とすか。決定的なヒントは出していたはずだがさて、Aは私の思惑通りに動いただろうか。さすがにそろそろ何らかのリアクションがあるだろう。


 私は電話を取り、いつも仕事を回してくれる出版社に電話をかける。原稿が仕上がったこと、それを少し部屋を留守にするので、取りに来てほしいと伝え、打診されていた執筆依頼についての断りを入れるためだ。


「ええ、少し本気でもう一度、小説に取り組んでみようかと思いまして……」


 そのための取材に海外へ。そう私が告げたとき、編集長の声がやや興奮気味で、


「そうかっ!ついに本気になったか岩永くん!私も君ならいつかそう言ってくれると思っていたよ〜」


 完成したらぜひ読ませてくれ、いやそれだけじゃない。うちの会社が出版を全面的にサポートして、君の処女作を大々的に送り出すとも。とやや興奮気味にまくし立てたがさて、どうなることやら。

 原稿なら既に仕上がっている。それを奴が、彼がどう扱うかは私にはわからない。


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