第一話。1-9
「……美味いのか?この店。鉄板焼きメインの居酒屋?といったところか」
私はメモを取りながら、思わずそんな言葉が出てしまったことに驚いた。……あまり、近づきすぎてはまずいと。
「……いいや、不味い。その他料理全般はな」
さっきまでのAの雰囲気が、急に和らいだのを感じた。遠い、思い出話を語るような優しさがあった。不味い、という言葉の響きにさえ。
私はそうか、と軽く相槌を打つにとどめて、今日の本題、質問に移る。
「君は、草薙啓一という男をどこで知り、どう言う内容のレポートを見たのかね?まあ、君にとっては聞かれすぎて耳タコだろうが……」
実の所、ネットの闇にその膨大な数の『レポート』が存在すると言うのは、【彼】の都市伝説の中では最もポピュラーな話しの一つだ。
が、警察当局の懸命な捜査にもかかわらず、その存在の確証は得られていない。
が、Aはおそらく、いや確実に一度はそのネットの闇の底へ手が届いている。そして何らかの方法で、そこに書かれていた内容を手に入れ、隠匿していると、警察内部の人間、特に専従の捜査官としてチームを率いている私の友人はそう、確信している。
「案外つまらない質問から始めるのな、あんた。まあいいさ、貴重な時間を望んで無駄にしたいって言うなら……何回でも話してやんよ」
ここに来て取材を始めた直後のような皮肉な笑みと、軽い口調が戻ってきた。
「……そうだな。つまらないとは、私は思わない。資料として渡されていた操作記録と例え、一字一句同じ内容だとしても、他人の手によって書かれたものより、本人の口から聞けたことの方が何倍も勝る、そう考えているのでね」
ふ〜ん、そう。つまらなそうにいい、Aは淡々と語り始めた。
……内容は、確かに調書の確認作業、それ以上でも以下でもない。がやはり人という生き物は感情の生き物。
ただ無感動に調書を取るだけの警察官ではみて取れないであろう、感情の動き、表情の変化。そこから色々のなものを読み取っていく。
私の、主観に基づいての、不確定で曖昧な【感想】以上のものではないかも知れないが、何気なく仕草、眉の動きや視点の先。身振り手振りが私に教えてくれるものは、数多くある。