表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/111

第五話。前編 last-4

 私の中でいい知れぬ情欲が湧き上がるのを覚えた。いつ以来だろうか、こんなにも女の身体、その温もりを欲したのは。

 私の朝食となった鯨肉もいつの間にやら、常連のような扱いを受けるようになった私に、仕入れ先を彼女が教えてくれた。大将はその仕込みと調理に絶対の自信があったのか、俺以上の味が出せるって言うなら、後継者に雇ってやるよと、仏頂面。3代目はそりゃ困ると苦笑い。


 何時の間にやら、常連面で店に通っていた目的はただ単に食事をするためではない。が、A についての取材の一環として通っていたわけでもない。私にとって最初の女、【獲物】を観察するためだった。

 実に美味しき、いい女だった。まだ10代で母さんに示された狩りの獲物。


「あの娘を犯しなさい。大丈夫、狩場はちゃんと設定してあるから」


 逆である。最初に完璧な、狩場を用意してそこに迷い込む哀れな獲物を、身を潜めて待ち伏せていたのだ。

 無我夢中だった。それは狩人、理性をフル回転して獲物を仕留めるようなある種、冷徹な感謝と慈悲を込めた、一発の弾丸を撃ち込むのではなく、親から離れ自らの野生、獣欲を持って無垢なる獲物を喰い散らかすように。


 その快楽に、初めての己の解放に私は溺れた、溺れきった。纏う布が頼りなく引き裂かれる音、暴力的に痛めつける身体、手に伝わる感触。無我夢中でむしゃぶりつき、思うがまま彼女の中に情慾を放った。

 ……全てが終わった時、食い散らかされたもの見下ろす。次の手順は決まっていた。


「誰かそこに居るの!?」


 突然遠くから声が響く。私はその声に驚いた様に慌てて逃げ出す。そして乗ってきた原付バイクに飛び乗り現場から立ち去った。後に残されたのは、被害者と声の主、母さんだ。

 その後の後始末については、簡単にしか聞かされなかったがどうやら、被害者とその家族は警察には行かなかった様で、事件化することも無かった。


「事件に、なったらなったで別に構わないのよ」


 そう言って笑っていたが、私にしてみれば気が気でない。初めての暴行、初めての性行為。何より自分の中にこれほど、狂おしい獣欲が存在していたこと。それに対する罪悪感と覚えたての快楽との狭間で、私は震えていた。

 これじゃまだまだね。先が思いやられるわね。後はどうなるか、何てのは運を天に任せなさい。そう言って母さんは次の狩りの話を始める。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ