第五話。前編 last-4
私の中でいい知れぬ情欲が湧き上がるのを覚えた。いつ以来だろうか、こんなにも女の身体、その温もりを欲したのは。
私の朝食となった鯨肉もいつの間にやら、常連のような扱いを受けるようになった私に、仕入れ先を彼女が教えてくれた。大将はその仕込みと調理に絶対の自信があったのか、俺以上の味が出せるって言うなら、後継者に雇ってやるよと、仏頂面。3代目はそりゃ困ると苦笑い。
何時の間にやら、常連面で店に通っていた目的はただ単に食事をするためではない。が、A についての取材の一環として通っていたわけでもない。私にとって最初の女、【獲物】を観察するためだった。
実に美味しき、いい女だった。まだ10代で母さんに示された狩りの獲物。
「あの娘を犯しなさい。大丈夫、狩場はちゃんと設定してあるから」
逆である。最初に完璧な、狩場を用意してそこに迷い込む哀れな獲物を、身を潜めて待ち伏せていたのだ。
無我夢中だった。それは狩人、理性をフル回転して獲物を仕留めるようなある種、冷徹な感謝と慈悲を込めた、一発の弾丸を撃ち込むのではなく、親から離れ自らの野生、獣欲を持って無垢なる獲物を喰い散らかすように。
その快楽に、初めての己の解放に私は溺れた、溺れきった。纏う布が頼りなく引き裂かれる音、暴力的に痛めつける身体、手に伝わる感触。無我夢中でむしゃぶりつき、思うがまま彼女の中に情慾を放った。
……全てが終わった時、食い散らかされたもの見下ろす。次の手順は決まっていた。
「誰かそこに居るの!?」
突然遠くから声が響く。私はその声に驚いた様に慌てて逃げ出す。そして乗ってきた原付バイクに飛び乗り現場から立ち去った。後に残されたのは、被害者と声の主、母さんだ。
その後の後始末については、簡単にしか聞かされなかったがどうやら、被害者とその家族は警察には行かなかった様で、事件化することも無かった。
「事件に、なったらなったで別に構わないのよ」
そう言って笑っていたが、私にしてみれば気が気でない。初めての暴行、初めての性行為。何より自分の中にこれほど、狂おしい獣欲が存在していたこと。それに対する罪悪感と覚えたての快楽との狭間で、私は震えていた。
これじゃまだまだね。先が思いやられるわね。後はどうなるか、何てのは運を天に任せなさい。そう言って母さんは次の狩りの話を始める。




