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第五話。後編 last-3

 私を最初に見た草薙は、随分と困惑した表情浮かべていた。当時、結婚していた相手との間には子供が生まれず、過去に1度、母さんに請われて慰めを与えたつもりになった一夜の出来事。それで生まれたのが私だと、草薙は一瞬信じなかった。


 最初の衝動的にお互い抱き合った、その時を除いて避妊はきちんとしていたのだから。

 馬鹿馬鹿しい。一個の命が生まれくるのに決まりきったロジックなど無い。それがあると言うのなら、たった1度のレイプで子を孕んでしまう被害女性、不妊に苦しむ夫婦など存在しないではないか。

 その時お母さんの中には、最愛の男との間にできた子供がいたのだ。

 何で、あの男に抱かれようと思ったんだと一度、母に聞いたことがある。


「え?ただの情報収集よ? 彼は私の観察対象。当然集められる資料は全て集めて保管しておくべきでしょう?」


 あぁ、そういう人だった。その言葉を聞いて幼かった私は、軽く思考停止、茫然自失に落ちた。そして見せてくれた草薙との行為で集めた彼の【体液】を。

 厳重管理されたその精液は、体外受精で子供を宿す為に十分な量と鮮度を保っていた。もっとも、本来の存在意義としての実を結ぶ事はなかったわけだが、利用価値は十二分にあった。


 それは結果として彼を死刑台に送りこむことになり、母さんの復讐は十全に果たされたことになる。


 食事を終え、気がつけば朝のテレビ番組から、今日の天気予報が流れ始めた。晴れところにより、にわか雨か雷雨があるだろう。天気予報は別に特別興味がない。が、この後に占いがあるのでこのチェックは個人的に怠れない。

 

「今日は水瓶座が1位か。だとすると牡牛座は最下位に近いだろうな」


 以前、とある占いの本を読んだときの知識がずっと頭の片隅にあり、【水瓶座】の人との相性は最悪と書かれていた。結果、今日の順位は8位。実に中途半端な位置だった。

 なぜ、水瓶座に思い入れがあるのか。疑問を持つものがいるのなら、私はこう答えるだろう。自分の家族の星座を知らないことがありえるのかと。そして、私の家族は1人だけである。


 結局、さほど長いとも言えない私の時間の中で、家族は家族と呼べるものが増える事はなかった。愛した女がいた。ほんの少し、交わっただけの女もいた。

 そして今、私は懐かしい女と再会していた。本来忘れ得ぬはずの女。殺人鬼A、その母親。正直忘れていたことを恥ずかしく思う。そのことに気づいて以来、私はあの鉄板焼き屋に足しげく通っていた。

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