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第五話。前編 last-2

 後は編集時にコンピューターグラフィックスを用いて、リアルな映像に仕立て上げる。出来上がった素材を海外の映像制作会社に納品する。

 一見、手間を掛け過ぎているようにも見えなくは無い。が、そう大した手間でもない。長年蓄積してきた【素材】は、それこそ山のようにある。いささか古い映像もあるにはあるが、それこそが本物のスナッフ・ムービー。母、岩永浩子のライフワークである、マン・ウォッチング。

 編集作業は主に私の仕事だった。大学に入るまで【脚本】は、書かせてもらえず。とは言え、お母さんの脚本が秀逸だったわけでもない。やはり根っからの女優だと思った。


 仕事と趣味が別々なんだ。母さんの趣味【観察・考察】と女優としての演技力。それらは相互間に影響しあっていたが、観察者として母さんは感情よりも、事象を重んじる傾向があった。

 それが克明なレポートにつながるわけだが、いざそうした【資料】を元に一旦、役に入り込んでしまうとそれはもう鬼気迫るものがあり、演技が始まると人間、岩永浩子はこの世からその存在を消し、作品世界に生きた登場人物の1人になる。


 その在り方をある種の憑依現象だと、したり顔でメディアに向かって絶賛する監督がいるかと思えば、ただの天然だと吐き捨て酷評する演出家もいた。

 それを見て私は大いに笑ったものだ。こいつらは母さん実像がまるでみえてない。だが、それで良い。母の本当の姿を知るものは少ない方が良いのだ。


 現役女優時代、そして半ば引退状態になり病状に臥すまで、母の私生活はついにメディアによって暴かれる事はなかった。私と言う隠し子の存在がメディアに露出したのは、計画の一端に過ぎなかった。

 後継者争い。母さんの支持者は表も裏も、かなりの数に上っている。あの男、草薙啓一も本人は自覚かもしれないが、信奉者の1人と数えて良いだろう。


 正直言って、草薙には嫌悪感しかない。例の事件後、母が用意した私書箱を使い、互いに文通していた。

 それだけにとどまらず、肉体関係をも持っていた。そしてあの日、私は彼に引き合わされた。

 息子として。しかしそれは事実無根。私は母にとっての最愛の男。草薙が守ることができなかった、しがない無名の画家。彼こそが私の父だ。私は母の復讐劇のシナリオ。その登場人物の1人として配置されたんだ。

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