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第五話。【最終話 〜とある殺人鬼は斯く語り逝く〜】前編 last-1

 もうすぐだ。もうすぐそこまで、終わりの足音が近づいてきてるのを、私は感じていた。ヒントはもう、さんざんに出してきた。懇切丁寧に言葉を尽くし、時には小細工を弄しながら、私は私について、あれに語って聞かせた。

 

【ゲームをしましょう】


 私は、そう言って笑う母の呪縛から、ついに逃れることができなかった。母さん、私はどうやら貴女の不肖者の弟子に過ぎなかった様です。

 数日前、とある死刑囚の刑が執行された。今もワイドショーはその話題で持ちきりだ。私はその日のニュース速報を無感動に眺めて、そっと黙祷した。

 朝のワイドショーをただ流しながら、何時もの朝食を取っていた。鯨肉のロースト。それにトマトとセロリ。数枚、薄くスライスした鯨肉の一片を口に運び、咀嚼する。熟成された鯨肉ローストは、何とも言えない旨味、苦手な人間には臭みと称するであろうそれが、私の口の中に広がる。


 手に取るトマトは一個丸々。塩など、余計なものはつけない。酸味と水分、ほのかな甘みが口の中に少し残る鯨肉と出会い、増幅される。

 そこへ生のセロリ。スティク状にしたそれを一本、コリコリと齧歯類のように頬張る。ゆっくり、よく咀嚼し唾液の分泌を促す。青臭さと唾液で舌を中和していく。そして、再びトマトからの鯨肉、セロリ。


 これがお決まりの朝食ルーティンである。

 ……付けっぱなしのテレビからまだ殺人鬼A、坂下シンジについての情報を流していた。【社会的影響を鑑みて】実名報道に切り替えた報道機関も多く、今後は彼の身内にまでスポットが当てられる事だろう。


「やれやれだ……」


 私はつい、声に出してため息をつく。さすがに彼の運命について、思うところがあった。別に、彼に対して同情や哀れみを持っていたわけではない。

 私が思ったのは和泉の事。やらかしたな、正直もう少し頭が切れるやつだと思っていた。買いかぶり過ぎていたのかもしれない。何せ、警察は無実の人間を死刑台に追いやったのだから。


 Aは【行為に及ぶ】際、準備されたものが全て本物だ、と思い込んでいたようだったが、それは間違いだ。すべて偽物。本物のような殺人現場、そこにある本物のような解剖台。横たわる、まるで生きているように見える、シリコン製の全身人形。

 そしてほんのり、精神に昂揚をもたらす心地の良いクスリを仕込まれたA。少々量が過ぎれば幻覚を見てしまうと言う、それを打たれた彼がイヤホン越しから届く敬愛する【師】の言葉に従い、様々な行為に及んでいく。

 その姿は室内に設置された監視カメラによって、撮影されていく。

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