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幕間の四 D-9

 日々、俺は無力感に苛まれていた。何度も何度もレポートを読み込んだ。それこそ、内容を全て暗記してしまいそうなほど。

 ……そして、運命の日を迎えた。


「……当該被告に対しては、死刑をもって臨むことが、やむを得ない」


 裁判長は主文を読み上げる前に、その理由を話すと告げた。裁判長に聞こえていますか?と問われた彼はごく短く、それでいてよく通る声で一言。


「はい」と告げた。



 ……控訴は、行われなかった。取り調べから、結審に至るまで自分の意思表示を殆ど行わなかった彼が、弁護団が告訴するべきと言う言葉を全て跳ね除け、頑なに刑に服すると。

 そう言う、彼の意志は固かった。その日、薬師寺から掛かってきた国際電話は、とてもじゃないが聞き取れない、意味不明な感情の発露でしか無かったが、俺には彼女に返す、言葉がなかった。

 電話が切れ、一人しかいないオフィスで俺は深く椅子に体を預け、天を仰ぐように天井を見つめた。


「俺の信じた道をゆけ……か」


 そう独り言を呟いて、俺はナギさんとの出会いから始まる記憶を辿る。随分と、怒鳴られたなぁ〜とか、俺の若いころはなあ、などとはもう耳にタコで、昔の印象深い事件を語ってくれたものだった……。


 ……とその時俺は、頭の中で何かがスパークするような感覚を得た。起き上がり再びPCを操作し、ある1つの【事件】についての、ナギさんのレポート、或いはメモ書きの類を探す。


「……ない。どこにもない、1行たりとも残されていない……っ!」


 ナギさん、感謝しますよ。酔って口が軽くなる貴方の酒癖の悪さに。

 それは、それこそがL.L文書に繋がる試金石となった。そう、ナギさんが最初に担当した事件。女優、岩永浩子に対する暴行未遂及び、彼女の知人男性殺害事件。それに関しての記述が一切、見当たらないのである。


【出来事は2つ重なるのは偶然と呼べる】


 だがもし、3つ以上の事象が重なり得るとしたら? そこには何らかの必然性が見いだせるのではないか?

 一度はレディー・Lなのではと疑われた女優。彼女と偶然関わりを持つことになった新米刑事時代の、ナギさん。彼のPCの中に残されていた膨大なレポート・メモ書きの中からすっぽり抜け落ちている、事件についての記述。

 だが、まだ弱い。もし仮にナギさんと彼女との間に何らかの繋がり、事件以後も関係が続いていたのだとしたら? それを裏付けられる物的証拠が見つけられたら……。

 不意にナギさんの顔が、俺の脳内で誰か別の、若い男の顔と重なって見えた気がした。

 

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