幕間の四 D-8
勿論、俺には取調べに参加することは出来ないし、むしろ逆。色々と根掘り葉掘り聞かれることになった。新人時代、そして部下として共に仕事した間のこと。
馬鹿馬鹿しいとは思いつつ、俺も一応思い出す限りのことを話し、尚且つ彼の無実を証明するために奔走した。間違いなく、彼の罪は何者かによってはめられたものだ。
根拠のない事ではあったが、そう周囲に話し続けまた、自分でできる限りの捜査をした。
少々強引に、ではあったが俺がICPOに呼び戻された理由である、L.L案件に絡めてまで、日本での捜査許可を取った。
その結果として、彼の使用していたと思われるパソコン内の【殺人レポート】を見ることができ、その内容とL.L文書との間に、俺はある種の類似性を見た。
それが思わず的を得ていたのだと分かるのだが、正直言ってその事はどうでもよかった。
むしろ、彼の無実を証明する為に利用する、【口実】ぐらいになればいい、程度に思っていた。
が、当時の幹部連中は、私の抱えるL.L案件と彼の事件との類似性、関連性を一切認めなかった。
そうこうしているうちに、俺の日本での捜査期間が終わりを告げ、フランスに戻る時、ナギさんとの面会が許された。その時間は僅か10分。
彼は、俺の言葉に一切答えず、ただじっと俺を見つめ続けるだけだった。目を逸らさず、ただ真っ直ぐに。
虚しく、面会時間は終了し俺から面会室から退出しようと、彼に背中を向けた時、
「お前はお前の信じた道をゆけ」
ポツリと、ナギさんが力無く呟いたのを、背中越しに聞いた。俺は振り返らず退出し、失意のうちに日本を後にした。
幸いにして、ナギさんが書いたとされる殺人レポート全文のコピーを提出させる事には成功してきたので、それをICPO内のL.L文書と照会して、類似点を洗い出していく。余り、時間は無かった。容疑者・草薙啓一は起訴され初公判にて検察側によって、死刑を求刑された。
弁護側も彼が沈黙を続けてるので、まともな弁護にならない。発言を求められても、一言『黙秘します』をただ繰り返すばかり。殺人レポートに基づき、捜索された現場から遺棄された思われる被害者の遺体が次々と発見される。現場検証に立ち会った際も、特に言葉を発する事なく沈黙を続けたと言う。
中には年端のいかぬ子供の遺体まであったと、日々のニュース記事と薬師寺からの電話とメールで知った。
電話越しの彼女の声は何時も、嗚咽混じりで俺が早く、証拠を掴んで戻ってくる事を望んでいた。




