第一話。1-8
「……いいだろう。少し聞きたいんだが、【そいつ】は確かに、紙原稿なんだな?直筆の……」
「ああ間違いない。直筆の紙原稿と思しきもののコピー、その一部だが草薙啓一本人の手による物かどうか、その真贋は出ていない」
嘘である。これは極秘情報にあたるからだ。何より、草薙啓一の手によるものとされるレポートの存在と、これに基づくと思われる犯罪が、彼の死刑執行後も続いている可能性がある事は、世間一般には伏せられている。それをAに漏らすわけにはいかない。
捜査の過程においてネット等から集めた情報から察するに、オリジナル【原稿】からの写本、著者は不明と言う代物だろうと、当局は結論づけている。
実際、押収された草薙啓一直筆のレポートには、具体的な【殺人】についての記述が、すっぽり抜け落ちており、筆跡鑑定でも両者は全くの別人であると。
これは賭けだ。私にこの手記を託した刑事は言った。Aは未だかなりの情報を秘匿していると。全ては草薙啓一、あるいはその背後にいる存在へ至る、新たな情報を得るために。
……眉間に皺を寄せ、かなり険悪になっていたAの表情が少し緩む。
「……あんたにやり口に乗ってやるよ、記者さん。俺から何が聞きたいんだ?聞きたいだけ、答えてやる。ただし……」
Aは条件を提示してきた。1.私が知り得た【彼】についての情報を全て教える事。今回のような後出しは無し。2.この【会談】の内容は全てきちんと記事にすること。3.会談は今日を含めてあと3回。
それは最低限、絶対の条件だとAは言った。
「3回?たったそれだけかね?」
「……充分だろう。むしろお前らが資料を出し渋って、引き伸ばそうとするんじゃないかと、俺は疑っているんだがな。第一、俺にはあまり時間がない」
「そんな小細工をするつもりはないが、確かに。君の言う通りにしよう。私としてはその上で、延長を許してもらえるよう努力するつもりだが……」
手札は勿論、未だある。なんせ草薙啓一本人が書いたものが未だこちらにはあるし、なんならそれを私が手にできた理由も、恐らくは彼にとって興味を引く、情報ソースとなるだろう。
「四つ。これはまあ、たまにで良い。これから言う店の焼きそばとたこ焼き、それを差し入れしてくれるなら、回数は増やしても良い」
カバンからメモ帳を取り出し、住所と店名を書き留めた。