幕間の四 D-2
確かに出向中、幾らかの手柄を挙げた。がそれはあくまでもデスクワーク、【捜査協力】の枠内で行った、いわゆる『安楽椅子の探偵』ごっこ程度の、退屈な案件に過ぎなかった。
そんな退屈な仕事の中で、俺が興味を覚えたものの中に、とある【国際的テロ事件】があった。
当時のICPOでは、それが個人によるものか一定の主義主張を持った組織、或いは宗教的イデオロギーに基づく殉教行為なのか、それすら掴めておらず、個々の事件を一つの共通項で分類し、ファイリングしていた。
その共通項を以て、通称【レディ・L】と称し、個別の事件を発生した時期に合わせてナンバリングしていた。
【犯罪の影に女あり】
古今、ミステリー小説などでの慣用句。それを現実にしたかのような、この一連のテロ事件。その犯行形態は様々であり、組織的な人質立て篭もり事件から爆弾テロ、或いは個人による銃乱射事件や性暴力、猟奇殺人とおよそ関連があるとは思えない。
特に組織的立て篭もり事件に関しては基本、何らか要求が政府ないし企業等へ為され、その要求内容から思想犯的性格を持つのか、或いは金銭、活動費目当てなのかと言う、幾つかお決まりのパターンでその内容如何により、背後関係を窺い知ることができる。
が、この【レディ・L】案件は大抵の場合、意味のある要求はなされず、立て篭もりそのものが目的なのか、或いは人質をただ見せしめのように害して、社会に対して挑発的な行動を取るようなものもあり、背後に何らかの【目的】を持った別組織があると言う考えのもと、捜査されていた。
そして、俺がICPOに着任する直前にとある爆弾テロが起きていた。ロンドンの地下鉄で複数箇所、同時に起きた爆破テロ事件がそれである。
このテロ事件そのものはイスラム過激派のシンパによる自爆テロであったがその前日、とあるインターネット掲示板にある書き込みが為されていた。
【近く、ロンドンで爆破テロが起きる。気をつけなさい】
そう投稿した人物の名前が【レディ・L】であり、明確にその名前が登場した最初の事件となった。
事件現場周辺の監視カメラには実行犯4名の姿が捉えられていたが、そのうちの一箇所でとある女性の姿があった。
職業年齢、出身地不明。見た目からは女性的に見える、セミロングの黒髪。サングラスをかけ薄ら紅い口紅から女性であると考えられているが、実際には性別不詳。




