幕間の四 警視【和泉潤一郎】の焦点。D-1
やはり俺は、親友を処刑台へ送ることになるのだろうか。果たして俺に、そんな資格はあるのだろうか。
かつて警察官としての基礎を教わり、長じて部下として俺と行動を共にし、犯罪捜査に携わったきた、歳の離れた戦友の無実を証明できず、彼を無為に死なせてしまったことによる、俺の中にある無力感と憤り。
それが晴れないまま、再びこの国の平和と秩序を守るという義務のもと、彼を決定的に追い詰めなくてはならない。
……現役警察官が、人が人を捌くことの是非について、いちいち悩んでいては仕事に支障をきたすだろう。だが、今、目の前につき据えられている資料、証拠のいくつかと俺の私見。
それらを改めて見直し、やはりと思わざるを得ない。何度見返そうとも、親友と一連の事件を一本に繋ぐ糸は無く、当然ながら彼を挙げる為の決定的な根拠がない。
だが、間違いなく『クロ』だと。
そして何より厄介なことは、たとえ決定的証拠を突きつけ彼の犯罪計画、その全容を明らかにしても、、我々警察は一人の【無実の人間】を死刑に追いやったという、取り返しのつかない【過ち】を犯した事を、自ずから暴露することになる。
無論それは、親友を逮捕して戦友の完全なる無実が証明されてこそ、起こり得る【事案】と言っていい。
そして俺は部下にして戦友たる【草薙啓一元死刑囚】が、完全なるシロ、無罪であるとは考えていない。恐らく、いや十中八九
彼は我々が追っている【殺人鬼】と、長期にわたって密接な関係にある。
【共犯者】
そう言っても過言あるまいと、考えている。が、それがどう言った共犯行為になるか、自発的なのか、それとも脅迫によるものかまでは、現時点では判断しようがない。
それを語るべき本人は、既にこの世にないのだから。
俺は、もう何度目か分からない自問自答を繰り返す。
…………………………
俺の中で事の始まりは、上層部の計らいという建前でICPO、国際刑事警察機構に飛ばされた時から始まる。
俺自身にとっては、退屈極まる二年間でしかなかったが、その間学び得たことは良き財産となるだろう。
帰国後、随分と成長した尾鰭と共に俺についての噂、部下は武勇伝と称した活躍について、根掘り葉掘り質問されたが、それに一々答えてやる義務のないので、現状放置している。
多少の悪名、悪評の類には利用価値がある、と俺は考えている。




