第四話。4-10
彼の生い立ちを克明に記すなら、当然彼女にとって辛い過去、話したくないであろうことを私は聞かねばならない。そして私は多分、聞くことはできないだろう。
「結果、私はしがないフリーライター程度にしかなれなかったと言うわけだな」
「だろうね。向いてないよあんた、記者に。それよりも子供向けのファンタジー、SF作家目指した方が良かったんじゃないか?」
「私も時々そう思わないではないが、君は何故、そう思ったのかね?」
内心に燻り、消え残る小さな夢を見透かされた気がしていた。
「前に渡してくれた例の手書きの【文章】あれってさ、よく書けてたし面白いと思ったんだけどさ、書いたのアンタだろ?」
彼は一旦そこで話を区切り、私を見据えた。私が書いた、と言う言葉には二重の意味がある。私が彼の言葉に対し肯定も否定の言も発さなかったので、再び言葉を続けた。
彼はその文章と【同様の物】をネットで読んでいた。それは彼のメモリーカード内にも存在していたので当然、内容は既知のものだった。
が、私はわざと内容を一部改竄していた。和泉に渡されていた原稿、その内容に沿うような形で、特定の人間にしか気づくことがないであろう、鍵を忍ばせて。
「プログラム。俺達は自分の行動原理をそう定義していた」
「……プログラム?どう言うことかね?」
「惚けなくていい。言葉としてはうまく隠されてはいたが、俺達はそのプログラムに沿って、自らを律し行動する。これがネームド。選ばれし者へ至るための試練だったからな」
それは、小説という形をとった【母の教え】全てを知る為に、なすべきことをそしてなしたきことを成す、選ばれしものを生み出す為の、【プログラム】そう、それは【神の計画】或いは、悪魔の……
「確かに、私がアレを書いた。改竄したことも認める。だが、君の言うプログラム、とやらについてはよく分からないな。非常に興味がある話しだが……」
さて、ここで全てを暴露するわけにはいかない。彼と二人きりならいざ知らず、監視の目があるこの状況では、慎重にならざるを得ない。
「ふん、どうだかね。まあいいさ。プログラムに沿って行動する者。その全てがか動機ある者、自覚あるものとは限らない。人は無意識下にあってなお、必然的にその役割を演じ、導かれるものである。それがプログラム、さしずめあんたは預言者、オラクルか、或いは……」




