第四話。4-9
そう言った【私物】を持つ事はなかったが実の所、代々【受け継がれて】来たものを鑑賞した事はある。
「へえ孤児院に、そうなんだ。あんた、育ち良さそうに思ったんだけど」
「努力と勉学に励んだ結果、今の私があるとしておこうか。ちょっと勘違いしているかもしれないが、ブツそのものを御神体のように受け継いできたわけではないぞ」
見つかれば当然、処分される。それはつまり、入手方法と隠し場所。そのノウハウを年長者から代々受け継いでいくのだ。そうして得たものは自分達【兄弟】の共有財産となり、持ち回りで隠す事になる。
「楽しそうなとこだったんだな。俺も行きたかった、かもな。そう言う場所があると知ってれば」
「……少し、プライベートに突っ込んだことを聞くが、それは、君の生い立ちに関係する話しかね?」
「まあね。けど、大体のことは察しがついてんだろう?俺の親のこととか、さ」
さて、ここで彼の生い立ちについて、話を深めてよいものか。私は少し、思案したのちこう切り出した。
「あの鉄板焼き屋で働いている女性が、君の母親、なのかね?」
「……直接、聞いたのか?母さんに」
そう言う彼の声、トーンが若干低くなった。それは警戒なのか敵意の表れなのか。やや判断に迷ったが私は、私が知り得ている事実だけを話すことにした。
「いや、あくまでも推測だが、やはりそうだったのか。最初会った時は気が付かなかったが……」
2度目以降に、何処となく似ているなと。年齢的にやや若過ぎるとも思ったが、あり得なくはないと。
「大将とは、少し話して君とはどうやら知り合いらしい、と分かったんだがね。が、それ以上のことを聞き出したり、君のことを話したりはしていないよ。一応、弁えているつもりだ。言っていいことと悪いこと。話したくないこと、言いたくない事、人にはそれぞれ事情があると」
無論、彼に対しても話さない事、あえて聞かないようにしていることもある。その一つが、彼の【父親】についてである。
「……あんた、それでよくフリーの記者なんかやってられるな。普通もっと突っ込んで聞き出そうとするもんだろ?特に、連続猟奇殺人犯の数奇な生い立ち、なんてのは一番、頭の悪い読者が食いつきそうなネタじゃないか」
ああ、私もそう思う。が口に出してはこう言った。
「それを記事にして欲しい、と言うのが君の望みなら詳しく聞くことになるだろうが、正直なところ、あの女性の悲しむ顔を私はあまり見たくはないかな」




