第四話。4-3
結局のところ、母さんが教えたかった【知る】というのは、物事の本質。人は何故、『そうする』のかを知る事。それだけだと言ってもいい。が、それとは別に努力して身に付けなければならない事も、何度も教わった。
……それは、
「やるべき事を過不足無く完遂する事、その術を身につける事。やるべきでないとされる事を学び、何故してはいけないかを理性で考える事」
口にしてしまえ簡単で当たり前な事に、聞こえるかもしれない。
「自分の思うように生きる。やりたい事をやりたいように。自由な発想をもった子供を育む為に、なんて教育は馬鹿を生み出すだけで有害にしかならない」
それが母さんの教育方針。でも母さん、母さんはあの時……ボクがそう口に出す前に母さんはそれをそっと制して、
「何故、人は人を殺してはいけないのか、分かる?」
分かるわけがなかった。答えられるわけはなかった。だって、いけない事じゃないか。命を奪うことは。人を殺すことは、悪いことじゃないか。
疑問は疑問を呼ぶ。幼さ故の思考停止、なんだろう。その後、ボクは何を言ったのか、ただ喚き散らし駄々を捏ね、こんなのおかしいよ、とボクは最後に呟いていた。
「あなたも、そんなこと言うのね。他の人たちと同じように」
そう言う言葉自体は、別になんの変哲もない、誰もが一度は口にする言葉なんじゃないかな。そして、なら好きにすればいい、理解できないものを理解する必要なんかない。そう言ってみんながみんな諦め顔で離れていくんだ。それが普通。
「などと、私が考えるはず、ないでしょ?」
母さんはボクの言葉に一瞬だけ、悲しそうな眼差しを向けた。でもそれは演技。だって母さんは女優なんだ。幾ら母さんを悲しませたり、反発して怒らせようとしても、そうボクに【演じてみせる】だけで、その後必ずこう言う。
「疑問を持ちなさい、悩みなさい。そしてそれらを全て理性で考えなさい。そして……」
何故、人は人を殺してはいけないのか。何故、欲望のまま嬲り犯し、食らってはいけないのか。それを理解しなさい、と。
「そんなの、分かるわけないよっ!」
そう言われた最初の日、ボクは自分でも驚くくらい母さんに向かって反抗した。それは別に母さんに対する最初の反抗じゃないし、もちろん最後でもない。でも、母さんは満面の笑みで言うだけなのだ。




